Main 心配 「………。」 ふぅ、と玄武さんは、嘆息すると、くるりと踵を返し、出入口に向かって歩きだした。 「…逃げんの?」 オレを抱き締めたまま、しずかちゃんは、低く問う。 スタスタと歩く玄武さんは、その安い挑発にのる事なく、肩越しに一度だけ振り返った。 「興醒めだ。」 短く言い捨て、扉に消えていく玄武さんを、今度はしずかちゃんも止めなかった。 「……ごめんね、りっちゃん。怖い目あわせて。」 「えっ?…あ、大丈夫だよ。」 玄武さんに気をとられていたオレは、話し掛けられ、一瞬焦る。 しずかちゃんは、曇った表情のまま、床に落ちたオレの眼鏡を拾い上げ、ハイ、と手渡してくれた。 「有り難う。」 慣れない眼鏡を再び掛けると、しずかちゃんはマジマジとオレを見た。 「…りっちゃん雰囲気変わったねー。どしたの?」 今更な言葉に、オレは苦笑する。 「んー…、イメチェン?」 「ふぅん?」 しずかちゃんは曖昧なオレの言葉を、それ以上は追及しないでくれた。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |