Main 3 ※西崎視点です。 スゥ、と御門の瞳が眇められる。 些細な筈の動作、だが変化は劇的だ。前列の奴らは、蛇に睨まれた蛙の如く身動ぎすら出来ない。 その場の空気が張り詰める。 だが設楽は、挑む様な目で笑った。さながら下剋上を狙う若武者の様に、強かに、狡猾に。 格の違いさえも関係無い。痛覚の無いバーサーカは、理性を得て、更に厄介な化け物へと進化した様だ。 「一週間前、生徒会補佐に立候補させていただきました」 「……」 『一週間前』 その言葉に動揺が広がる。 水を打った様に静まり返っていた講堂内が、再び騒つき始めた。 御門暁良は眉間にシワを寄せた程度だったが、一般生徒らは、そうはいかない。 何せ『急遽』決められた生徒会補佐に候補が二人。 一人は名前と顔も一致しない一般生徒。 もう一人は前もって立候補していた、類い稀なる美形。 容姿が良い者が尊ばれる風潮の強いこの学園で、どちらに分があるかなど、火を見るより明らかな事だ。 「申請を受けた覚えは無いが」 設楽を後押しする様な空気は、鋭い声に一刀両断される。御門暁良は、馬鹿馬鹿しいと言いたげに一蹴した。 すぐに露見する様な嘘をつくなど愚かの一言に尽きる。 策とも言えぬ様な、拙い足掻き。あの男には、そう見えるのだろう。 確かに此れは、無謀な挑戦。謂わば獅子の喉笛を狙う猫。 ――だが、無策では無い。 「あ、ごめん会長」 思いもよらぬ方向から、声が割り込んだ。 カタン、と音をたて椅子から立ち上がった第三者に、生徒らは目を見開く。 そいつは軽い謝罪を口にすると、懐に手を入れ何かを探る。 取り出した物をゆっくりと開くと、睥睨する御門暁良に向かって広げて突き出した。 「……オレが受けてるよ。会長忙しいみたいだったから、先に顧問に申請しちゃったんだよねー」 あくまで軽い口調で、けれど質の悪い……まるで毒の様な笑みを浮かべる男を見ながら、オレはいつだかの会話を思い出していた。 あれは青龍の元を訪れた夜、設楽安史を交え、斎藤の身を守る為の策を講じていた時の事。 日下部京一や志藤静を味方に引き入れる事を、不可能だと判じたオレ達に向かって、設楽安史は言った。 『もう少し、ひねくれた考え方をしてみませんか?』と。 そうして、言葉通りひねくれた笑顔を浮かべた設楽は、こう続けたのだ。 『誰が此方の味方になり得るのか、では無くて、』 『誰があちらを――、裏切れるのか』 壇上の男は、酷く愉しそうに瞳を細める。あの時の設楽に似た笑みを浮かべ、 「書記であるオレの認証及び顧問の印も、ちゃあんとあるよ?」 男――名雪圭吾は、そう宣言したのだった。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |