Main 10 ※日下部視点です。 「明日明後日に…という程ではないようですが、周辺が大分騒がしくなってきた模様です。」 男は、ひじ掛けに頬杖をつき、皮肉げに口角をあげた。 「くたばる前から、死んだ後の算段とはな。…さしずめ、一番躍起になっているのは、奥方様か?」 私が無言で頷くと、男は嘆息する。 「跡取りは、ご自慢の愛息にほぼ決定だと聞いていたが…。随分目の敵にされてんな。」 面倒臭ぇ、と男は、もう一度、長く息を吐き出した。 「日下部。」 「は。」 「目を配っておけ。」 「…了解致しました。」 端的に呟いた男に、私も簡潔に返した。 男は、手元の書類から目を離し、窓の外へ視線を向ける。 暗闇の中、遠くの空に、時折光が走った。 月や星を覆い隠す暗雲。 やがて此処にも、雨を呼ぶだろう。 「…荒れるな。」 ポツリと呟いた男の声が、部屋の中に落ちた。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |