Main 5 ※静視点です。 言いたい事は、それだけか。そう問われ、オレは何も返せなかった。 無表情の日下部を、ただ見返すだけ。 日下部は数秒無言だったが、まるで待ち時間は終わったと言わんばかりに目を伏せた。 僅かに下がった眼鏡のブリッジを中指で押し上げた日下部は、踵を返す。 「……他には無いようだな」 その声は平坦だったが、ありありと蔑みが透けて見える。 馬鹿が。そう言葉無く告げられた気がした。 「……っ、」 無様なのは百も承知。誰に言われずとも、自分が一番知っている。 いっそ括り殺してやりたい程に。 でも、冷静になんてなれない。なれる筈がない。 「オレはっ……」 叫びはしなかった。擦れた声は己のものとは思えない程に弱々しく、ともすれば遠い雑音にかき消されてしまいそうに小さかった。 けれど日下部は足を止める。 「……オレは、」 日下部の後ろ姿を見ながらオレは、まるで独り言のように呟いた。 「りっちゃんを……悲しませたくなんかないんだよっ……!」 そう、告げた次の瞬間 ――ガンッ!!! 「…うぐ、!?」 一瞬でオレとの間合いを詰めた日下部に、胸ぐらを掴み上げられ、背中を壁に叩きつけられた。 息が止まる。容赦の無い手は尚も気道を押し、酸欠に拍車をかけた。 「黙れ」 鋭い声と同じ位、鋭い視線が至近距離で突き刺さる。 さっきまでの無表情、冷静沈着な様子がまやかしだったかの様に、日下部は分かりやすく激昂していた。 「悲しませたくないだと?よくその口で言える。お前が、オレ達が何をしてきたか分かっていて言っているのか?」 「……っ、」 「オレ達は、誰を探していた?誰をかぎ回り、追い詰めていた?……最終的に、暁良様と彼を引き合わせてしまったのは、一体誰だ?」 日下部はオレが目を逸らしていた事を、容赦無く眼前に突き付けてきた。 彼を、りっちゃんを追い詰めたのは、オレ。 オレが家の騒動に巻き込まなければ、りっちゃんはアイツに見つからずにすんだ。 ああ、それに。 どうしようもない馬鹿なオレは、墨田になんて言った。 いらないなら、寄越せと言わなかったか。 壊されても構わない、御門の退屈しのぎになれば。玩具の替えなんていくらでもある、と そんな下衆な事を、考えていなかったか。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |