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移動中
「…とまぁ、簡単に説明すると、こんな感じでしょうか」
「…………」
そう締めくくり、華やかな美貌に爽やかな笑みを浮かべた安史を見つめたまま、オレは唖然とする他無かった。
安史の説明は、その繊細な容姿や言葉遣いに反して、凄くザックリとしている。
粗筋にしたって端折り過ぎだと思う。
『オレが補佐に立候補して、名雪圭吾にフォローしてもらいました』
それだけで全てを理解しろと!?
隣を歩く安史を半目で睨むと、彼は首を傾げ微笑む。
オレの物言いたげな目には気付いたが、それ以上補足する気は無い様だ。
今オレ達は生徒会室に移動中で、廊下を歩いている。
人気は無いとはいえ、公共の場。あまり詳しい内容は控えた方が良いと判断しての事なのかもしれない。
それにしたって酷いと思うけれど。
いっそ何も言われない方がなんぼかマシだ。中途半端な説明だと、モヤモヤする。
「…………」
ハァ、と長く息を吐き出したオレは、安史から視線を外し前を向いた。
詳しい成り行きは気になるけれど、今は考え無い事にする。
きっと安史が、今必要と判断したのは『安史が補佐になった事』と『名雪圭吾がフォローした事』だけ。
なら最低限の情報以外は、削ぎ落として行こう。オレによそ見を出来る余裕なんて無い。
「……味方、では無いよな」
オレがそう短く問えば、安史は浮かべる笑みの種類を変えた。
口角を持ち上げ、瞳を僅かに細めただけだと言うのに、貴公子の様な優雅な微笑は、意地悪で蠱惑的なソレに変化する。
「勿論。今回のみの例外である事を忘れないで下さい」
「ん。了解」
簡潔に返すと、安史は満足そうに頷いた。
「…………」
「…どうしました?」
パチパチと瞬き、安史を見上げると、彼は不思議そうにオレを見る。
「……何でも無い」
甘やかすだけ甘やかすのでは無く、助けつつも少し突き放す。
その距離感は、《陰/陽》の皆と良く似ている。特に白さんに。
甘いのに時折スパルタな、あの麗人にとても。
似てきたね、なんて言ったらきっと、照れを隠す様に不機嫌になるのだろう。
少し見てみたい気もする、とオレは安史から見えない角度で破顔しながら思っていたのだった。
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