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※西崎視点です。


スゥ、と御門の瞳が眇められる。
些細な筈の動作、だが変化は劇的だ。前列の奴らは、蛇に睨まれた蛙の如く身動ぎすら出来ない。


その場の空気が張り詰める。


だが設楽は、挑む様な目で笑った。さながら下剋上を狙う若武者の様に、強かに、狡猾に。
格の違いさえも関係無い。痛覚の無いバーサーカは、理性を得て、更に厄介な化け物へと進化した様だ。


「一週間前、生徒会補佐に立候補させていただきました」

「……」


『一週間前』
その言葉に動揺が広がる。
水を打った様に静まり返っていた講堂内が、再び騒つき始めた。


御門暁良は眉間にシワを寄せた程度だったが、一般生徒らは、そうはいかない。
何せ『急遽』決められた生徒会補佐に候補が二人。
一人は名前と顔も一致しない一般生徒。
もう一人は前もって立候補していた、類い稀なる美形。


容姿が良い者が尊ばれる風潮の強いこの学園で、どちらに分があるかなど、火を見るより明らかな事だ。


「申請を受けた覚えは無いが」


設楽を後押しする様な空気は、鋭い声に一刀両断される。御門暁良は、馬鹿馬鹿しいと言いたげに一蹴した。


すぐに露見する様な嘘をつくなど愚かの一言に尽きる。
策とも言えぬ様な、拙い足掻き。あの男には、そう見えるのだろう。


確かに此れは、無謀な挑戦。謂わば獅子の喉笛を狙う猫。




――だが、無策では無い。


「あ、ごめん会長」


思いもよらぬ方向から、声が割り込んだ。
カタン、と音をたて椅子から立ち上がった第三者に、生徒らは目を見開く。


そいつは軽い謝罪を口にすると、懐に手を入れ何かを探る。
取り出した物をゆっくりと開くと、睥睨する御門暁良に向かって広げて突き出した。


「……オレが受けてるよ。会長忙しいみたいだったから、先に顧問に申請しちゃったんだよねー」


あくまで軽い口調で、けれど質の悪い……まるで毒の様な笑みを浮かべる男を見ながら、オレはいつだかの会話を思い出していた。


あれは青龍の元を訪れた夜、設楽安史を交え、斎藤の身を守る為の策を講じていた時の事。


日下部京一や志藤静を味方に引き入れる事を、不可能だと判じたオレ達に向かって、設楽安史は言った。
『もう少し、ひねくれた考え方をしてみませんか?』と。


そうして、言葉通りひねくれた笑顔を浮かべた設楽は、こう続けたのだ。


『誰が此方の味方になり得るのか、では無くて、』


『誰があちらを――、裏切れるのか』


壇上の男は、酷く愉しそうに瞳を細める。あの時の設楽に似た笑みを浮かべ、


「書記であるオレの認証及び顧問の印も、ちゃあんとあるよ?」


男――名雪圭吾は、そう宣言したのだった。


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