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3


「…………」


センセは厳しい表情で腕組みしたまま、口を閉ざしていた。
オレの顔を見据えたまま、何も言わない。


オレも黙ってしまった為、その場に沈黙が落ちた。


どれ位経過しただろう。実際は1分にも満たない程度だろうが、緊張した空気に晒されていたオレには、とても長く感じた。


「……その『黒龍』とやらは、」


センセが、ゆっくりと口を開く。オレから視線を外さないまま。
鋭過ぎる眼光に捕らえられたオレの気分は、蛇に睨まれた蛙。もしくは狼の前に置き去りにされた山羊。


「お前さんにとって、一体何だ?」


嘘は許さない、と。
鋭い瞳がオレに、通告した。


「…………」


ゴクリ、とオレの喉が鳴る。
嘘をつく気は無いけど、緊張するもんだなぁ。とオレは他人事の様に思う。


「黒さんは、オレの保護者で、恩人で……」

「ちょっと待て。……保護者?」


予想外の答えだったのか、一度言葉を遮られた。
目を瞠ったセンセに、オレは苦笑を返す。


「凛ちゃんは、『沙鞠』の社長令息だろ?」

「ええ、まぁ……」

「もしかして血が……」

「いえ。正真正銘、実の父です。残念ながら」


昼ドラ展開ではありません。……たぶん。


オレはセンセに、今までの事を、掻い摘んで説明した。
父が借金で蒸発した辺りから、黒さんに拾われ、また父の元に帰るまでを。


センセは終始難しい顔をしていたが、黙ってオレの話を聞いてくれている。
始業の鐘が鳴るのを聞きながらも、オレは話すのを止めなかった。


話を聞き終えたセンセは、腕組みを解くと、ソファーに深く身を沈めた。
彼の口から、長い長いため息が洩れる。


「……苦労してそうな奴だとは思っていたが……お前さんは予想の上を行くな」

「そうですかね……?」


自分ではそうは思わない。実際、働いた事なんて無いし。
昔は母さんに。母さんが亡くなってからは黒さんに護られて。


「オレはずっと幸せだったし、これからも幸せに生きていくつもりです」


何とも図太い宣言をすれば、センセは目を丸くした後、優しい笑顔を浮かべ、そうか、と呟いた。


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