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「…………、」


オレは、ハ、と不自然に息を逃がす。
呼吸を深く整える事も出来ない。


なんだって貴方は、そんなにオレを甘やかす天才なの。


『…誰より頑張り屋で、誰より甘え下手なお前が、漸く伸ばした手くらい、オレがとりてぇんだよ。』


電話越しなのに、いつもみたいに髪を撫でられているような錯覚さえした。
少し弱ったような声は、ただひたすらに甘い。


『お前は、懐に入れた人間には底抜けに甘いから、自分よりまず周りの奴を気遣う。…だからオレはその分まで、お前の痛みに気付けるようでありたいと思った。』


不器用なオレは、上手く甘える事が出来ないまま、一人で立つ方法ばかり探していた。


貴方を『家族』だと、面と向かって言えなかったのも、それが一つの理由。


大好きなのに、
大切なのに、

どうしても、手を伸ばす事が出来なかった。


大好きだから、
大切だからこそ、

重荷に思われたらどうしようって、怖くて――。


「………っ、」

『…まぁ、自己満足だけどな。』


苦く笑う黒さんに、オレの視界がジワリとぼやけた。


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あきゅろす。
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