Main 彼の隣 「…黒さんに、」 呟いてオレは、黙り込む。 黒さんに、連絡。 それは至極真っ当な意見なんだろう。 …それでもオレは、すぐには頷けなかった。 少し離れた場所で、見守ってくれるスタンスが常な彼は、例えどんな困難な状況だろうと、立ち上がる事を止めない限り、決して手を出さない。 そりゃ、ほんの少しのサポートはしてくれるけれど、それだけ。 重要な事は全部、自分でやらせてくれる。 でもそれは冷たいとかではなくて、寧ろ逆。 オレが、やりたいと思っているから、黒さんはオレの意志を尊重してくれているだけ。 だって、オレが困難だと思っている事も、黒さんにとっては極簡単な案件だったりする事が多い。 見守るより、自分でやっちゃった方が、簡単で早い。絶対。 それなのに、黒さんは絶対手を出さない。 頑張れ、と笑うだけ。 そして出来た時には、穏やかに目を細め、 よく出来ました、と言わんばかりに頭を撫でてくれる。 その、瞬間が好きだった。 満足そうに緩む瞳が。 ――とても。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |