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「待っていられない。病院に、」

「このまま、ですか?」


撫子さんは、若干震える声で、それでも凛とした表情で、尚久さんを見る。


「ナイフが刺さった状態で病院にいっては、彼の名誉にいらぬ傷をつける事になりかねません。」

「……撫子、さん。」


撫子さんは、今、此処にいる誰より冷静だった。


そうだ。
オレは、一応、大企業の息子。
人目は気にしなくてはならない立場だ。


「…かといって、抜くのは危険です。なら、私のかかりつけのお医者様をお呼びするのが、最善策かと思います。」

「……………、」


尚久さんも、たぶん彼女の言葉が正しい事は分かっている。

でも納得は出来ないのか、押し黙った彼の手に、僅かに力が込められ、オレを見る瞳が、不安げに、揺れた。


「…斎藤君の意識は、まだしっかりしています。…急ぎますから、早まらないで下さい。」


念を押した彼女は、オレに、手を心臓より上に上げさせ、尚久さんにそのまま固定を頼むと、部屋の扉を開け、出て行った。


「………………。」


茫然とその後ろ姿を見送り、オレは思う。


…しずかちゃん。


あなたが思うような女性じゃないよ、彼女は。


弱くなんて、ない。


彼女は、


とても芯の強い、綺麗な人だよ。


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あきゅろす。
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