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※尚久視点です。
「大事なこと、忘れてるからっ…!」
いたた…と呻きながらも、斎藤君は大きく声をはる。
「君の怪我以上の優先事項なんて無いだろ!?」
「ある!…撫子、さんっ!」
何故か喧嘩腰になりつつあるオレに負けないように、彼は擦れた声を、振り絞る。
尚も進もうとするオレの肩越し、撫子に必死に語り掛けた。
茫然自失だった撫子は、彼に呼ばれ、ビクン、と体を跳ねさせる。
蒼白な顔色で、ゆっくりと彼を、見上げた。
「…怖いおもい、させて…ごめんなさい!…でももう、大丈夫だから、」
「っ、」
大きく瞠られる目に、彼は言葉を区切り、困ったように苦笑した。
「……だから、泣かないで。」
「…………、」
ひぅ、と不自然に撫子は、息を吸い込んだ。
唇を噛み締め、掌を握りこんだ彼女が、泣くのをこらえているのは、誰の目にも明白で、斎藤君の顔は、益々困ったようになった。
それでも馬鹿正直に、彼の望みのまま、泣く事を堪える少女の、素直さと、
意外な強さに、
初めてこの少女を、嫌いでは無い、と思えたのも、
きっと君の、おかげなんだろう。
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