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※尚久視点です。


「……………、」
「…っ、!?」


為す術無く彼の前で呆然としているオレを、彼…斎藤凛は、そっと抱き締めた。


ナイフの刺さっていない右手だけが、オレの背に廻される。


凭れるように、オレの肩口に額を押し付け、彼は痛みを堪えるように小刻みに呼吸を繰り返しながら、オレに語り掛けた。



「……子供の頃、…オレは、親父に捨て、られました。」

「……………え、…?」


その、衝撃的な告白に、オレは返す言葉を持たなかった。


ただ愕然と、その言葉を脳内で繰り返す。


「…借金で、蒸発。……珍しくも、無い、…ベタな展開ですが…。」


小さく笑った気配がして、オレは益々混乱する。


そんな風に、話せるような境遇では無い。
少なくとも、当人には、地獄な筈だ。


「…女手一つで、育ててくれた、母、も…亡くなって…オレの世界は、……弟だけに、なった。……親戚を、たらい回しに、されて…頼る人も、いなくて…………、」


怖かった。


ポツリ、と付け加えられた言葉に、


たった一言に、オレは、


彼の、『分かります。』と言ってくれた本当の意味を知る。


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あきゅろす。
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