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「君に、何が分かるっ…!!」
激昂した尚久さんは、オレを壁に押し付けるように、首を締めあげてきた。
「甘やかされて愛されている奴に、オレの何が分かる!?…幼い頃から、傍にいたのは、過剰な期待を押し付けてくる母親だけ。同い年の子供と遊ばせて貰う事も許されず、ただ華道のみしか与えられなかった…そんな奴の苦しみが、分かるのか!?」
「……っ、は」
ギリッ、と締めあげる手に、力がこもる。
壁に押し付けられた背だけを支えに、爪先が浮き上がる程締められ、呼吸が辛い。
肩越しに撫子さんが、泣きそうな顔で見ている事に気付いたが、逃げて、と口を動かす事も出来なかった。
「たった一つしか持たない人間が、ソレを奪われる怖さが、君に分かる筈無いっ…!!」
「っあ…!!!」
オレは酸素を求め息を吸うが、締められている喉は、ヒューヒューと、耳障りな音をたてるだけ。
ぼんやりしてきた頭で、それでもオレは、真っ直ぐに彼の目を見る。
目の前のこの人を、もう怖いとは思えなかった。
陽に、似てるとも思ったけど、それ以上に、
この人は、オレに似ている。
黒さんに出会う前の、オレに。
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