Main 窮地 「っ、」 ドサッ 「「!?」」 緊迫した空気の中、オレ達の背後で、何かに躓いた音がした。 視線を向けると、入り口近くに、いつの間にか移動した撫子さんが、蹲っていた。 どうやら足の紐は外せたようだが、何かに足を引っ掛けてしまったよう。 「……逃げる気かい?撫子。」 「…っ、」 撫子さんの姿を見て、尚久さんは、スゥ、と冷徹に瞳を眇めた。 恐怖に身を竦め、撫子さんは声無き悲鳴を洩らす。 猿轡を噛んだまま、フルフルとかぶりを振った。 オレから離れた尚久さんは、ゆっくり立ち上がる。 彼女を冷たい目で見据えながら、洗練された美貌に、冷笑を浮かべた。 「…嘘は、いけないよ?撫子。」 彼女との距離を縮めようとする尚久さんを止めようと、オレも立ち上がろうとした。 「…グッ、」 しかし、殴られた腹が強烈に痛み、すぐに膝をついてしまった。 その間にも、撫子さんに近付いた尚久さんは、屈んで、彼女の頬に、手を伸ばした。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |