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得られぬもの


「…っ、」


ギリッと、オレを拘束する手に力がこもる。


「君を傷付けたら、静は泣くと思う?」

「………そんなの、知りませんよ。」


怯える心を押し隠し、オレは、尚久さんを睨む。


未だ挑発的な態度を崩さないオレに、尚久さんは、僅かに目を瞠った。


明らかに喧嘩慣れしてなさそうなオレが、逃げ腰にならない事が意外なのかもしれないが、ご期待通りオレはチキンだよ。


これだって、精一杯の虚勢。


尚久さんがオレに気をとられている間に、どうにか状況を打開出来ないかと、何とか手振りで撫子さんに合図をする。


足首の紐は、緩んでいるから、上手くいけば外せる筈。


足が動けば、逃げれる可能性だって出てくる。


…絶対に、しずかちゃん達が駆け付けてくれるから。


それまで、彼女を護らなきゃ。


「……綺麗な目だね。」

「…………は?」


決意も新たに、歯を食い縛ったオレは、唐突な言葉に、目を丸くした。


視線を向けると、何故か剣呑な瞳をした尚久さんと目が合う。


今迄楽しそうに笑っていた彼は、突然、親の敵を見るような目で、オレを睥睨していた。


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