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「……ば、つ…?」
呑まれるな、と心の中で繰り返しながら、オレは呟いた。
けれどオレの意志を無視して、声は無様に擦れる。
「そう、罰。」
さも愉しげに、彼は唇を歪めた。
「当主の座の為にも必要だが、オレが撫子に拘る一番の理由は、静が彼女に固執しているからだ。」
「!…知ってて、」
尚久さんは、しずかちゃんの想いに気付いていた。
そして、それを逆に利用して、彼を苦しめる為の術の一つにしてしまうなんて。
「大切なものを奪われる苦しみを、アイツも知ればいい。…アイツを苦しめる為なら、オレはどんな労力も惜しまないよ。」
「……………、」
ふいに、尚久さんの手がオレの頬を包み込む。
やけに優しい手つきで、そっと撫でる手に、逆に不安を膨らませば、彼は殊更優しい声で、オレを呼んだ。
「…そういえばさ、……斎藤君?」
君も、静の、大切な人の一人だよね、と
尚久さんは、呟いた。
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