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※暁良視点です。
「『黒い龍を、引き裂いて野良犬の餌にしてやろうか?…影』」
雑魚どもに言わせていた言葉を、そのまま繰り返す。
「―――。」
一瞬で、ブワリと、怒気が膨れ上がった。
キィンと張り詰めた空気。
「――黒さんは」
その怒気にそぐわない、静かで平坦な声。
張るわけでも無いのに、その声は不思議と良くとおった。
「黒さんは、お前にやられたりなんか、しない。」
そこには、確固たる信頼があった。
「気高き黒龍は、地獄の番犬ごときに墜とされたりしない―――。」
ガシャ。
言い終えると同時に、小柄な影は、フェンスに手を掛け飛び越える。
「―――自殺でもする気か?」
興醒めな思いで、低く問う。
細い背中は、怯える様子もなく、強い風に、黒髪をなびかせている。
「………。」
躊躇なく、ヒラリと虚空に体を躍らせた。
「!?」
「………。」
ゆっくりフェンスに近付く。
「………は。」
思わず、笑い声が漏れた。
眼下に見えるのは、愚か者の死体などではない。
奴が飛び降りたのは、下の階の、連絡通路の屋根。
そこから雨樋に手を伸ばし、器用にスルスルと降りた奴は、こちらを振り返りもせず、駆けていく。
流石。逃げ足では、奴に誰も適わない。
正体は不明。
《陰/陽》の極一部の幹部以外、顔も知られていない『黒龍の影《陰》』。
戦闘に関わる事は無く、黒龍の傍に、極稀に現れる。
警察から、敵チームから、《陰/陽》を逃がす導き手。
「……やっと見つけたぜ。オレの玩具。」
極上の愛を囁くように唄う。
どうやって、捕まえようか。
どうやって、遊ぶか。
―――どうやって、壊そうか。
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