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大人の事情


何だろう。


しずかちゃんの
お母さんに会って、
お父さんに会って、
お兄さんに会って、


けれど一度たりとも、『家族』を感じた事は無い。

暖かな温度なんて、微塵も無くて、
あるのは、
他人より希薄な絆と、寒い空気。


本来なら、シェルターのように、守ってくれる筈の『家族』。
…まぁ、複雑な家庭のオレが言えた事じゃないけどさ。


此処は、シェルターというよりは、敵地だ。


やっとオレは、此処に来た当初のしずかちゃんの言葉に納得がいった。


「…………。」


「…貴方がたは、」


黙り込んだしずかちゃんを放置し、尚久さんはオレ達に向き直る。


矛先を急に向けられ怯むオレに、尚久さんは、柔らかく微笑む。


「母から聞いています。はじめまして、斎藤君。僕は、静の兄の尚久です。」

「…はじめまして。」


差し出された手を、握りながら、オレはぎこちなく笑み返した。


…この反応はきっと、お母さんからオレの素性聞いたんだろうな。
十中八九。…いや、百パか。


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