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特技は平凡です。


「……いいなぁ」
(平和って)


放課後の教室。
窓際の一番後ろというベストポジションな自分の席から、窓の外を眺めながら、オレこと斎藤 凛(サイトウ リン)は呟いた。


「何がだ?」


独り言のつもりの言葉は、うっかり拾われてしまったようで、オレの視界に男が割り込んできた。

男の名前は、桐生 鴇(キリュウ トキ)。

クセの強い黒髪を、ワックスで後ろに撫で付け、小綺麗にしているにも関わらず、何処か退廃的な雰囲気のあるこの男は、オレの担任教師だ。

ワイルドで色気のある整った顔立ちに、不精髭が良く似合っている。
何で教師という職業を選択したかを、小一時間問いただしたい容貌だ。

オレの前の席に勝手に座り、これ見よがしに長い足を組んだセンセを視界から外し、オレは平和な時間を満喫するように、大きく伸びをした。


「なぁ、何がだよ」


今の時期って暑くも寒くもなくていいよねー。時間も何だかゆっくりすぎてくみたいでさ。
スローライフって言うのかな?


「無視か?無視なのか?」


お気に入りの場所で、読書とか昼寝とか、最高っすよ。
因みにオレのお気に入りは屋上と図書館。

特に図書館は凄い。
だって《図書室》じゃなくて《図書館》なんだよ?校舎の一角にあるんじゃなくて、一個の建物、丸々占領しているの。
そもそもオレの入学した天稜学園(テンリョウガクエン)は、金持ち学校だけあって、金の無駄としか言い様の無い華美な施設が多いんだけど、図書館だけは、よくやったと褒めてやりたい。


「おーい。凛ちゃん」


施設も本も充実している図書館は、本好きにとっては正にヘブン。
今日も今から行こうかなぁー……。ぽかぽかの暖かい日差しの中、推理小説でも読み耽けるのも幸せそう。


「……あんまり無視すると、先生行っちゃうぞ?」

「キモい語尾つけんのも前に座るのも止めて下さい。セクハラです。てかどこぞのマダムとご同伴という名の寿司屋デートでもカタコト日本語のアジア系の方との路地裏密会デートでもお好きにどうぞ。」

「酷ぇ!!前に座っただけでセクハラ!?しかも何そのニ択!オレってホスト!?それともチンピラ!?」

「センセは存在そのものが、何らかの法に引っ掛かっていると思いますよ?」

「いい笑顔で全否定!?」


普段のダルダルな空気は何処へ置いてきたのかと言いたくなる、テンションの高いツッコミを繰り返す担任教師に、オレは完璧な笑顔のまま言い切った。


「センセ。そのテンション正直ヒきます。」

「本当に酷ぇよ、凛ちゃん……。」


センセは疲れ果てたように、ガックリと机に突っ伏した。

嗚呼、面白い。

だからこの先生好き(酷い)

金持ち全寮制学校……しかも男子校にブチ込まれた時には、親父殺すと本気で思ったけど。
入学して1ヶ月半、オレの人生の中でも珍しい平和な日々に、ほんの1ミクロンくらいは、親父に感謝してやってもいいと思った。

クラスメイトはいい奴ばっかりだし、センセはこんな風に見えて生徒想いの良い先生だし。


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