Main 武藤という男。 …大体、そんな必要無いっしよ。 「ちゃんと今、塩鮭焼いてるし、卵焼きはちょっと甘くしてあるよ。白和えは、ヒジキじゃなくてホウレン草にしたし。」 「………。」 ご不満ありますか?と瞳で問うと、武藤は、スルリと腕を外し、無言で洗面所へ向かった。 勝った! オレらの様子を見ていた西崎は、珍しくも、可笑しそうに笑っていた。 「…孤高の一匹狼も、お前にかかっちゃ、形なしだな。」 「?…武藤の事?」 フライパンに、溶き卵を流しながら西崎に問うと、隣で使い終わった調理器具を洗いつつ、西崎は話してくれた。 「…群れず、従わず。夜の街で、たった一人でいるのは、思うよりずっと難しい。誰の味方でも無い、と、誰の敵でも無い、は、イコールでは無いからな。」 「……。」 言われた言葉は、抽象的にも聞こえたが、言いたい事は、よく分かった。 夜の街で、どの組織にも属さないという事は、どこの組織の庇護も無い、という事。 そして、どの組織からも、狙われうる、という事。 「それでも奴は、生き残った。単純に強かったからだ。…灰狼(ハイロウ)、と呼ばれてた事もあったようだがな。呼んだ奴を端から沈めたらしい。」 己以外の何にもなる気は無い、という主張なのか。 …それとも、青さん同様、恥ずかしい名で呼ぶな、って事なんだか。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |