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7
※墨田視点です。
志藤の顔から、完全に笑顔が消えた。
―――無表情になっただけ。
だが、その変化は苛烈だった。
空気が張り詰める。
まるで、極限まで引かれた糸のように、触れれば切れる危うさだ。
「…オレはさっきまで、お前に興味なんてなかった。」
静かな声は、まるで別人のように、低い。
感情の全てを削ぎ落としたかのような声音は、冴え凍る氷柱の如く冷たく、鋭く。
「でも今は違う。…なぁ、墨田―――遊ぼうぜ。」
ニィ、と唇を歪め、志藤は残忍な笑みを浮かべた。
「…全力で潰してやるよ。」
滅多に本気にならない獣は、その鋭い牙を剥き、咆哮をあげる。
純粋な殺気が、真っ直ぐに俺へぶつけられた。
事態の異常さに、俺はついていけない。
この光景を例えるならば、
追い詰める筈の獲物を、大事に護る、獰猛な獣。
ユラリ、と体を傾け、志藤はまるで踊るように、間合いを詰める。
「っ!」
一触即発で、争いが始まろうとした、その瞬間。
巻き込まれ、戸惑っていた黒猫が飛び出してきた。
「待った!!」
ガシッとぶら下がるように、志藤の腕を掴む。
全力の制止が功を奏したのか、僅かに志藤の瞳に理性が戻った。
―――改めて、問たい。
何がどうなっているんだ?
説明してくれ、陰。
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