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小説
フシギバナ♂A
いつものように研究所でパートナーを待つ日々だった。
頭の弱いゼニガメと。臆病でドジッ子なヒトカゲと一緒に。俺は5回目で、他の二人は一回目。
次に来る新米は3人。
この中の誰かは必ず選ばれるように。今回は三人とも旅に出れるだろう。
4回選ばれなかった。その分、博士の仕事を覚えた。
他の二人より頭のできがいいのも分かっているけど。
博士たちは好きではない。
擬人化は主人のために。
そう言っておきながら俺の擬人化を望む。
望んでいいのは、主人だけなのに。
だが、来た新米は二人だった。
二人はゼニガメとヒトカゲを選んで旅立った。
暖かな眼差しの子供たちと一緒に。
なら、俺のパートナーになるはずだった子はどこに行った?
答えはすぐにやってきた。
一人の女が泣きながら博士に言う。

『博士、フシギダネは残っていますか?』
『ああ。だがこのフシギダネは今日くるもう一人の子供のための子でね。あなたには……』

博士は正論を言う。別に俺は誰でもかまわない。ここから連れて行ってくれるのなら。
誰でもかまわない。

『あの子は来ません。だからお願いです、あの子が欲しがっていたフシギダネを引き取らせてください。お願いします』

女が言うには、今日来るはずだった子供は、たまたま事故に会って、意識のない状態で、もしかしたら死ぬかもしれないという事。
今日を楽しみにしていて、絶対にフシギダネが欲しかったのだという事。
来れない子供の為にどうしてもフシギダネを譲ってほしいという事。
それを渋る博士には悪いけれど、俺は悟ってしまった。
その子供はもう二度と目を覚まさないという事を。
ただの直観だけど、無視するにはどうしようもないこと。
何度も頭を下げて頼みこむ女に博士は折れた。
嫌々ながら俺のモンスターボールを渡して、俺を連れて行くことを許可した。
博士としては、俺が助手であるほうが得だったんだろうが、そうはいくか。
真新しい図鑑をこっそりと手にとって俺は女について行く。
女が向かった先はやはり病院。
女が入った部屋で、まだ小さな子供と、たくさんの管につながれて寝ている子供を見た。
小さな子供は泣き、寝ている子供はピクリとも動かない。

『ねぇ、   。フシギダネを貰ってきたのよ。あなたが欲しがっていたフシギダネ。嬉しいでしょう?早く起きて、ね、   。』

管がついている子供から鼻につく臭いがする。
管がついている子供はおそらくもう死んでいるだろう。
名前を言っていたが、あまりにも異常で聞こえなかった。
泣いている子供には目もくれず、女はただただ管の付いている子供に声をかける。
そうなると嫌でも泣いている子供をなだめるのは俺の役目になる。

『おい。餓鬼』
『っく、お兄ちゃん、だ、れ?』

泣きながらでもちゃんと聞いてくる。躾がいいのではなく、そうしないといけないから。
泣いている子供の体に見えた小さなあざの数。
よくあることだろう。片方しか愛せない親なんて。

『俺はフシギダネ。お前は?』
『僕は、名無しって言うの』
『へー。偉い偉い。名無しはちゃんと名前を言えるんだな』
『うん!』

泣き止んだ小さな子供と壊れてしまった女。
きっとこの子はこれから大変だろう。
片方しか愛せない女にとって重りでしかないから。
だから、パートナーがいなくなったことを目にしたから、これからのことを決めるのは俺。
泣きながらその小さな手を俺に伸ばしてくれるというのなら、決めてやろう。
俺のこれからは、この子にやると。

『名無し。今いくつ?』
『えっとね、僕ね、5つになったんだよ!』

幼い。5つとは、またずいぶん幼い。
子供がトレーナーとして認められるのには10歳にならないといけない。
それまでこの女に預けておいて大丈夫だろうか。
大丈夫であることを信じないといけないだろう。
まだ俺には5つなったばかりの子供を養うだけの力はないから。
この子が安心して生きて行けるように力を蓄える期間だと思えばいい。
だから、今は耐えて。
君が10歳になったら、助けてあげられるから。

『名無し。良く聞いて。君が』
『?』
『君が10歳になるまで待つから。君パートナーとして、君を守っていけるだけの力をつけるから。だから、また会おう。今はまだ、その時じゃないから』
『お兄ちゃん?』

未だに小さな子供に目もくれないで、女はただ管の付いた子供に話しかける。
はっきり言って狂っているだろう。
どう見ても死んでいるのに。愛情をささげている。
小さな子供を見て、腕につけていた腕輪を外して、子供に持たせる。

『お兄ちゃん?』
『約束だから。これは次に会ったときに、ね。名無しが持っていて』
『?』
『いずれ分かるから。またな、名無し』

そう言ってその場を勝手に離れた。もちろん、女が持っている俺のモンスターボールを持って。
名無しに再会するまでに、ある程度の実力と、経済力を持っておかないといけないから。
今はまだ弱いけれど、強くなれる。
それがポケモンだ。
擬人化を隠して人の社会に紛れることになるが、これも名無しのためだ。我慢しよう。
そう思ってそれからは割と努力をした。
仕事もそこそこできるから、人間たちからは頼られた。ポケモンであることを隠して。
そして、それから名無しと再会したのは7年後。
街の外れで柄の悪い人間に絡まれている、ボロボロの名無し。
俺の行動は速かった。

『何やってんのー?ねぇ、お兄さん達』

俺は、人を攻撃するのにためらいはない。
名無しを速やかに助け出して、借りていたアパートに匿った。

☆☆

「フシギバナ!起きろ!!」
「あれー?名無しどうしたのー?」
「ひ、人を抱き枕にしてんじゃねぇよ!!!!」

寝ていた内に無意識で名無しを抱きかかえていたようだ。
別にいいのだけど、命令されない限り離さないでいいかと思い、もう一度寝ることにする。

「んー名無しも寝よっかー」
「家事があるんだけど!!!!?って、寝るなぁぁぁぁぁぁ!!!!」

たまにつまんでみたくなるのだけど、もう少し我慢する。
まだまだそういう関係は早いだろうから。
けどいずれ、俺以外が目に入らないようにしてやるよ。
なぁ、名無し。

お粗末様。

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あきゅろす。
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