月の魔力(高神)
―どうして私はまたあの男の所に行こうとしているのだろう?
頭では駄目だと判りきっているのに体がいう事をきいてくれない
進める足は迷うこと無く男がいる場所へと向ってしまう
全てはあの満月の夜に出会ったのが始まりだった
初めて会ったあの時、危険人物だと頭の中では警報が鳴り響いていたにも関わらずその男は自分と同じ匂いがするのを感じてしまった
それからというもの気になって夜になると1人こっそりと家を抜け出してはあの男を探した
そんなことを繰り返していたある日、路地裏へと来ていた神楽はふと夜空を見上げるとそこには大きな月が出ていた
前に会ったと時もこんな月が出てた事を思い出す
ふいに背後から人の気配を感じ振り向くとそこにはまさしく神楽が探していた人物が立っていた
「よぉ、じゃじゃ馬姫じゃねぇか…どうしたんだこんな所に?」
「…ただの散歩アル」
「クク…散歩か。俺にはただの散歩には見えなかったがなぁ」
「じゃあお前にはどう見えたアルか?」
「そうさなぁ…俺には何かを探しているように見えたんだが」
男に図星を付かれ内心焦る
「……そう言うお前こそ何でこんな所にいるネ?」
苦し紛れに何とか相手に悟られない様に問いただす
すると男は口端を少し上げて微笑しながら言った
「俺も探しものを探してたんだがな、丁度見つかった所だ」
「ふ〜ん…で、一体何を探してたアルか?」
「…蒼い瞳を持った兎だ」
そう言いながら神楽へと近づき、耳元で囁く
「お前と俺はどうやら似ているみてぇだなぁ」
そう言い終わると神楽から少し離れ、向かい合わせになる
「そういやまだお前にはちゃんと名乗ってなかったなぁ…俺は高杉晋助だ。お前の名は?」
「……神楽アル」
「神楽か、良い名だ…それと、また俺に会いたければ初めて会ったあの港に来い。最近またあの場所に船を泊めてるんでな」
「…誰がお前の所になんて行くカヨ」
「ククク…お前はまた絶対に俺の所にくる。なんせ俺と似てるからなぁ…わかるんだよ」
「だからお前と一緒にすんじゃねぇヨ」
「まぁ良い…じゃあまたな神楽」
そう言って高杉は背を向け歩き出し神楽の前から姿を消した
それから数日が経ち、神楽はまた夜に1人で外出していた
向かっている場所は高杉のいるあの港
そして冒頭と同様に何故かあの男のもとへと向かって足を進める自分
気が付けばいつの間にか港に着き高杉が居るであろう船の前まで来ていた
「クク…やっぱり俺の言った通り来たじゃねぇか…なぁ?神楽」
後ろを見ると煙管を吹かしながらこちらに歩いて近づいてくる高杉
「いつからいたアルか?」
「今日辺りお前が来ると思って船から降りて待っていれば案の定お前が来たって訳だ。つくづく俺たちは似ている様だなぁ」
そう言って高杉は口端を上げて笑った
まるで誰かに操られているかの様に其処へ引き寄せられる
――そしてまた今日も私はあの男のもとへと向かう
月の魔力
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