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嘘と本音と。
やっと入学式





正直入学式なんてものはダルい。だから寝てしまったのも仕方がないと思いたい。
気持ちよく眠っていた僕を起こしたのは悲鳴だった。

「な、何だ?」

寝ぼけた頭であたりを見回す。何が起こったか把握しようという行動だ。ステージには30人ほどの生徒、周りは総立ち、ただ悲鳴が恐怖ではなく歓喜だったことだけが理解できた。

「うるせーよなぁまったく。お前もそう思わねぇ?」

左隣から聞こえてきた声にそちらを向けば、黒い髪をツンツンと立たせた生徒がいた。
制服は着崩すというよりはだけて、ゴツイアクセサリーをたくさんつけている、いかにも不良な見た目である。が、初対面の人間に話しかけてくるところを見ると性格は気さくなようだ。

「この悲鳴は?いい睡眠妨害なんだけど…」
「今期の役員のお披露目ってやつ?なーんかキラキラした奴ばっかでうさんくせぇんだよな」

吐き捨てるように言った生徒を周りの何人かが睨んでいたが、まったく気にするそぶりは見せなかった。結構図太いらしい。

「つーかお前編入生だろ?」
「うん」
「ああ、やっぱり。ここの奴らとは違う匂いがする」
「匂い?」
「そ、お前からはここの匂いがしない。俺、お前と友達になるわ。よろしく」

…どうしてそうなる。まだ僕は君の名前も知らないんだけど。

「嫌?俺お前となら仲良くできそうなんだけど」
「いや、そうじゃない。友達は大歓迎」

そんな明らかにしょんぼりした顔で見られても!

「よっしゃ、俺はSクラスの高嶋連夜!お前もSだよな?」
「うん。僕は三神翔、よろ…」

よろしくという言葉は一層煩い歓声にかき消された。
今度は何だ、と思ってステージへ目を移すと1週間前に会った理事長がいた。
やっぱり見た目が若い。みんなやっぱり憧れるんだな、と思うと同時に、ああ、理事長がこれだけ人気ってことは先輩も相当人気だな、なんて。あの嫌そうな顔を思い出してちょっと笑いそうになった。

「理事長って言えばさ、息子が二年にいるんだぜ。役員への誘いを全部蹴ったって有名なんだ!俺話してみたいんだよな、親子揃って俺様な性格かなー」
「話したことないのか?」

同じSクラスなら学年が違っても話す機会くらいありそうっていうか、会おうと思えばいつでも会えそうじゃないか。両方目立つし。

「俺、特権使ってよく学校休んでっからさ、有名な人らとはあんまり関わりねーの。先輩と直接会ったのは2回だな!」

ということは特待生仲間だろうか。

「へぇ。見た目も中身もそっくりだったよ。兄弟みたいだった」
「は?会ったことあんの?」
「部屋が隣なんだ」
「マジで!じゃあ特待生じゃん、仲間だなー」

俺も同じ階だし、遊びに来いよ!って言いながら肝心の部屋番号を言わないところを見ると、相当なうっかりさんだな。


『入学式を終わります。各自担任に続いて教室へ入ってください』

司会の言葉で生徒が残念そうに声を洩らす。司会の人を若干哀れに思いながら、指示通り担任に続いて教室へ戻った。
席は自由らしく、連夜は迷わず後ろの席に座った。
見た目が少し怖いとはいえ、かっこいい部類に入る連夜が後ろを陣取ったというのに、なぜか傍に座ろうとする人がいない。チラチラと連夜を窺い見るくらいなら隣でも前でも座ればいいのに。連夜は視線なんてなんのその。手招きまでしてる。
結局、窓際最後列という素晴らしいポジションを逃すつもりのない僕が座った。

そうして僕の右隣には連夜がいて、僕の1つ前の席は空いている。
HRが始まっても来ないので欠席か遅刻なのかと思っていたがそうではないらしい。

「すみません、遅れました」

がらりと前の扉を開けて出てきたのはなんだかキラキラとしたオーラをまとった人だった。髪は黒だが染め直したような不自然な真っ黒。不自然な綺麗な笑顔。
この人嘘つきだ、と頭の中に僕の声が響く。

「ああ、志野か。空いている席に座ってくれ」
「はい」

志野と呼ばれた人は僕の前の席へ座ると空席はなくなった。
連絡事項を言い終えて先生がいなくなると生徒ががやがやと騒ぎだす。今日は入学式とHRで終わりらしい。僕は寮へ帰ろうかなと思ってかばんをもったところで前の人が振り返って、作りものの笑顔を浮かべた。

「初めまして、編入生かな?僕は志野一真(かずま)です。よろしく」

よろしくする気はないくせに…と、声には出さずに思った。

「こちらこそ。三神翔です」

お互い心にもない挨拶。それを感じ取ったのか連夜が顔を顰めた。

「おい一真、こいつにそんな仮面いらないぞ!翔も、分かってんなら合わせなくていいし」

連夜の言葉に驚いたのは俺じゃなくて志野の方だった。

「連夜が認めるなんて珍しい」
「うん。俺の見た目にビビんなかったし、お前のこともまっすぐ見てくれる」

何の話か分からないけど、口を出してはいけない空気だった。

「でも、僕らがよくても…」
「大丈夫だって、俺のカンは外れたことないだろ?」

な?という連夜に志野が頷いて、一件落着したらしい。

「えーと、」
「あ、三神くんごめんね。その、僕、軽く人間不信で…」
「いや、重度だ!」

連夜が真顔でつっこむ。

「もうっ、連夜は黙っててくれよ。で、あの、さっきはあんなつまんない挨拶しちゃったけど、僕とも友達になってくれる?」
「俺たちと友達になるともれなく周りの嫉妬が付いてくるから、嫌って言うなら今だぞ!」

人気者というのはなんとなく気づいてた。視線が突き刺さるから。でも、それは他人が勝手に見ているだけで、気にしなければいい。

「僕はもう友達だと思ってたけど、違うのか?」
「ち、違わない。僕もそう思ってるよ」
「俺もだ!」

晴れやかに笑った二人を見て、きっとこれでよかったのだと思う。友達、というものが今はまだよく分からないけれど。




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あきゅろす。
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