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嘘と本音と。
裏風紀










「さて、お前には特待生であると同時に“裏風紀”に所属してもらう」

一息つくと理事長は普段の調子に戻り、先ほどまでの張りつめた空気は消えた。

「裏風紀…?」

風紀委員会ではなく、裏?

「詳しいことはそこのバカ息子に聞け」
「馬鹿とはなんだクソ親父。説明めんどくせぇからって省くな」

あ、いたんだっけ?と思うくらい今の今まで静かだったから、後から聞こえた声に驚いた。

「うるさいガキだな。三神は今日着いたばっかで疲れてんだ。さっさと寮に連れてってやれよ」
「チッ…三神、行くぞ」

鈴宮先輩が背を向けたので、理事長に軽く頭を下げてエレベーターへと乗り込んだ。
そう、それで、その日は疲れてるだろうからって説明はなくて、寮の部屋に案内してもらってわかれた。












「で、まずこの学園の特色から話す。何か知ってることは?」
「男子校、全寮制、セレブ校」
「……それだけか」
「パンフレットすらもらってないので」

こればっかりは仕方がない。
施設を出てその足で来たんだから。むしろ知ってる方が変だ。

「簡潔に言うぞ。ここは同性愛者が多い。閉鎖空間なせいか、憧れが恋に発展したり、性欲の発散を男でするってことが普通にある。元々その気があるのが半数。入学後に染まるのが3、4割ってとこだな」
「はぁ」
「…反応薄くねぇか?」
「興味がないので」

男を好きになる予定も、男に好かれる予定も今のところない。
たとえ目の前でいちゃつかれようと見なければいいだけのこと。

「お前に興味があろうとなかろうと、巻き込まれることもある。お前の容姿なら絡まれることもあるだろうから、警戒はしとけよ」
「分かりました」
「………」
「なんですか、その疑いの目は」
「…まぁいい。その特色がこの学園内の人間関係に大きく関わってくる」

なんでも目立つ人間にはたいていファンがいるらしい。それがまた熱烈で、親衛隊とかファンクラブと呼ばれている。非公式ではあるがそういった組織によって、人気者の周辺は監視、管理されているのだ。
非常にうざったいと思うのは僕だけだろうか。

「目立つ奴には近づくなよ」
「努力します」

僕は地味な方だからたぶん大丈夫だろう。

「よし、次は特待生と一般生徒、役員についてだ」

実をいうと今は青鈴学園に来て二日目の午後、僕の部屋へわざわざ先輩が説明しに来てくれている。実は部屋が隣だった。ちなみに僕は一番端っこの部屋だから隣は先輩の部屋だけ。

「まず特待生は成績優秀者かスポーツで優秀な成績を収めた者、まれにそれ以外の能力を買われてきたやつもいる」

お前もそれに当てはまってるけど、成績も優秀だからどっちなんだろうな、と先輩が首を傾げた。
とりあえず僕は、男前な顔でそんな仕草をするのは反則だとか関係ないことを考えていた。

「ちなみに先輩は成績の方ですか?」
「成績とスポーツだ」
「ああ、納得です」

筋肉の付き具合が物語ってましたよ。

「特待生に選ばれると寮費と学費、一年時の教材費が学校負担。あと制服一式と体操着一式、各一着ずつ提供。食費もはじめの一ヶ月間は無料。それから授業は出なくても公欠扱い。もちろん限度はあるが」
「かなり優遇されてますね」

それでも食費は2ヶ月目から、教材は2年目から、制服も2着目からは自分持ちだし、生活雑費も買わないといけない。やはりバイトはしないといけなさそうだ。

「その代わり結果を残せってことだ。あまりに成果がないと一般生徒落ちもあるしな」

なるほど、それはうかうかしていられない訳だ。特待生であってこその特権だから、当然特待生でいるためには最低限の努力は必要だと。

「一般生徒からの特待生もアリだ。二年や三年になって頭角を現す奴もいるしな」
「へぇ」
「役員についても知っておけよ」

役員は全部で5つあるらしい。
それが生徒会、風紀委員、情報委員、保健委員、管理委員である。役割は今は省く。
要約すると生徒会と風紀は選挙、それ以外の役員は特待生またはそれに準ずる生徒が委員長になり、他は一般生徒から指名制らしい。

「役員は中等部からこの学園に通ってる奴から選出されるから、すでに決まってる」
「入学式前なのに?早くないですか?」

まだ入学式まで何日もあるのに急ぎすぎじゃないだろうか?

「指名制ってこともあって、役員候補には卒業前に声がかかる。他の役員にいい人材を取られないようにってことだな」
「先輩は役員なんですか?」
「いや、役員には入ってないぜ」
「生徒会長とか似合いそうなのに…」

妙に迫力あるし、貫禄あるし、人を統率できそうだし、合ってるような気がする。
口は悪いけど、厭味には聞こえないし。

「生徒会なんてめんどくせぇとこ入るわけねぇだろ」

心底嫌そうに続けた。

「生徒会には嫌いな奴がいるからな。しかもそいつが生徒会長だ」
「でも生徒会は選挙でしょう?先輩なら選ばれてそうですけど」
「そんなもん権力でねじ伏せた」

もう少しオブラートに包んで欲しかったな…。

「それに、やる気があってもなくても、俺には役員にはつけない理由がある」
「…それが裏風紀ですか?」

当たりだ。と先輩が言った。
裏風紀とは、私服警官に近いと思う。風紀が表立って動くのと逆に一般生徒に紛れて影で動く。
仕事は主に学園の治安維持、要注意人物の監視など警備員のやるようなことだ。そして新しくできた役割が、生徒の心の闇を取り除くこと。これが僕のメインの仕事になるらしい。

「裏で動くために、当然顔が割れては駄目だ。現に裏風紀は“あるらしい”程度の噂しかねぇ。裏風紀の存在も、自分の立場もバラすなよ?」
「分かりました。メンバーは何人いるんですか?」
「お前含めて7人だな。俺が委員長でお前は補佐として俺とペアだ。他の5人の内2人はペアで治安維持、残り3人は情報収集と監視メインで仕事をしている」
「少ないですね」
「大人数だとバレる要素が濃くなるからな」

確かに、人が多いければそれだけリスクも高くなる。

「だが、15人〜20人ほどだと思わせるように動いている。今のところ騙されてくれているが、生徒会、風紀委員、情報委員あたりにはすぐにばれるだろうな」
「ちなみにメンバーは?」
「…裏風紀を全員把握してるのは俺だけだ。他はペアの相手しかしらない。情報収集役の3人も誰が裏風紀かはしらない。まぁ、だいたい目星は付いてるだろうが」

つまり僕にもそれは教えられないことで、すべては委員長である先輩が連絡と指示をする、と。これならば万が一情報が漏れても、裏風紀の存在と委員長の先輩だけ。うまく考えてある。
表立って動けないのは意外と面倒だな。

「ここからが重要だ。生徒会と風紀、それから情報委員長には極力接触するな」
「なぜ?」
「生徒会と風紀は裏風紀にあまりいい感情を持っていない。だから正体を暴きたいと前々から動いているんだ。情報委員長は単なる好奇心からだが…どちらも怪しいと思ったらすぐにカマをかけてくる。気を付けろよ。頭だけはいい連中だからな」

なるほど、自分たちに出来ないことを影でやってるのが気に食わないと。
聞く限り情報委員長が一番危ない気がする。好奇心の強い人間ほど、手段は選ばないから。




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あきゅろす。
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