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嘘と本音と。
小さな決意


エレベーターを見つけるとすでに下がってきていた。きっと先生か誰かだろう。
しかし職員室のある2階には止まらず、目の前で扉が開いた。
制服を着ているし生徒のようだ。

「特待の編入生だな?乗れ」
「はい」

きっと案内の為にでも呼ばれたのだろう、少し態度のでかい男に従いエレベーターに乗った。
案内なんて必要ないけど…とは思ったが、そんなことを言えば機嫌を損ねることは分かり切っている。名前も知らない男と言い争うなんてめんどくさいので、何も言わなかった。

「………」

沈黙が続く中、なんとなく隣の男を見る。自分より10p以上は高いであろう身長に、細くもなく太くもなく程よく筋肉の付いた体。おそらく何かスポーツで常に鍛えているのだろう。制服は多少着崩し、黒い髪は襟足を少し長めに伸ばしているが、チャラい印象は受けない。そう思わせないオーラがある。
女にモテて、男には憧れを抱かれるタイプだな、と判断し、また自分とは合わない人種だとも思った。

「さっきから何だ?」

視線がうざい、とでも言いたげな口ぶりに微かに苦笑いする。

「いえ、名前聞いてないな、と思いまして」

そもそも碌に挨拶すらしてない。
いくら今だけの付き合いとしても、名前くらいは名乗るべきだと思う。お互いに。

「鈴宮大輝(だいき)、二年だ」
「僕は三神翔(しょう)です。鈴宮ということは…」

理事長の御子息、そしてそのせいで案内を押し付けられたために不機嫌ってところだろうか。

「察しの通りだ。ほら、着いたぜ」

チン、という音とともにエレベーターの扉が開いた。鈴宮先輩に続いて降りると、フロア全体が部屋になっていた。廊下を予想してたのにこれじゃあ心の準備もあったものじゃない。
そして中央のソファーに座っている理事長を見て、正直部屋より驚いた。

「同じ顔…ですね」
「親子だからな」

先輩の言うとおり、理事長と鈴宮先輩は親子。
顔が似ていてもおかしくないのだが、これはそっくり過ぎる。若干理事長の方が迫力があるし、双子とは思わないが見た目だけなら少し年の離れた兄弟と思ってもおかしくない。
理事長が若々しすぎるのか、先輩が少し老けているのかは微妙なラインだ。

「よく来たな。理事長の鈴宮光輝(こうき)だ」
「初めまして、三神翔です」
「お前の話は英(すぐる)から聞いてるぜ。優秀なんだってな」
「吉田先生から…」

施設の先生の名前を聞いて、少し気持ちが落ちた。
理由は分かってる。施設から先生から逃げるように出た自分を思い出してしまったから。

「お前の持ってる才能についても聞いた」
「……そうですか」
「おいおい、テンション低いな」

そう言いながらも困った様子は見られない。マイペースのようだ。

「で、特待生。最初に言っておく」

す、と真面目な目に変わり、さっきまでの和やかな空気はどこへやら。
今はどちらかというとピリピリしている。

「俺は英にお前を任された。俺は英と違って優しくないからな。必要ならお前の痛いところも迷わず突くぜ?入学してから嫌気がさして退学なんてのもナシだ」

僕は、ここへ入ると決めた。退学なんて何があってもしない。それより、

「任された、っていうのはどういう意味ですか?」

生活全般、ともとれなくはないが、何か別の意味合いも含まれているような気がする。
だってこの人、悪だくみするみたいに笑ってるから。

「言葉のままの意味だ。お前はこのままじゃ潰れる。だから俺たちが引き揚げてやろうってんだ。お前の罪を償わせてやるよ」
「何を、」

息が、止まるかと思った。罪、なんて誰にも、先生にだって話したことないのに、どうしてこの人が。

「なんでって顔だな。お前の目を見れば自分を責めてることくらい分かる」
「先生は…どこまで貴方に話したんですか」
「能力と、施設にいれなくなった大まかな理由だ」

それだけの情報で、この人には分かってしまうのか。
俯いてギリ、と唇を噛んだ。

「…なぁ、お前が罪だと思うなら、それは誰でもない“お前の”罪なんだ。罪を犯したならどうする?償えばいい。反省止まりじゃ何も変わらないってことをお前は分かってるはずだ。だからどう償っていいか分からないお前に、償うチャンスと変わるチャンスをやる」

僕の罪…それは許されることじゃない。
もし、彼らが許したって僕が許せない、僕の罪。
本当に償えるのだろうか?変ろうとしてもいいのだろうか?
心が揺れる。
僕に、時間を進める権利はある?
まだ彼らが立ち直っていないかもしれないのに、僕が自分を許すために“償う”だなんて。

「お前にできることは一つ、その力で嘘の壁をぶち壊すこと。今度は傷付けるんじゃなく、救ってやれ」

そんなこと、できるわけない。
心底困って視線を上げたのに、理事長は憎たらしいくらい綺麗な笑顔だった。


「お前がどんなに嫌がっても放っておいてなんかやらねぇぜ?」


無性に泣きたくなった。
驚いて声が出なくて、だから小さく頷いた。これは僕の小さな覚悟。
償いをしよう。例え自分のためだと言われようとも。





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