「行きます」
これで三年は生活に困らない。
「よかった。荷物はこちらで送るから好きな時に出発しなさい。入学式にさえ間に合えばギリギリまでいたっていい」
「いえ、今日の内に出ます」
施設の子たちも、その方が喜ぶだろう。
「そうか、では学園へ行ったらまず理事長室へ行くこと。特待生は必ず理事長にあいさつに行く決まりでね。あいつ、君と話してみたいと言っていたから、よかったら少し相手してやってほしい」
一つ頷いた。
「それから、もうひとつ」
「?」
「守れなくてごめんな」
「何、を…」
「いや、聞き流してくれていい。俺は君がここにいてくれてよかったと思ってる。ありがとう」
「………」
目を伏せて、踵を返した。施設の出口へ向かうために。
「何かあったらいつでも戻って来ていいんだからね?僕は君の父親なんだから」
最後まで何も言わなかった。
言えなかった。もう、戻る気はなかったから。
そうそう、それでここへ来て、でも昨日はご飯食べなかったから、こんなに胃が気持ち悪いんだ。冷静に分析してため息が出た。
4月1日、施設を出たその足で、電車で2時間、そして高級車(先生が連絡したのか理事長が迎えを寄越してくれた)で40分という中々遠い道のりを経て、ようやく学園へと足を踏み入れた。これだけ町から離れたら全寮制なのも納得。毎日通うのは大変すぎる。
理事長室は校舎の最上階らしい。運転手さんからもらった学園の見取り図を広げて確認すると校舎らしき白い建物へと入る。
春休み中ともなれば人気がないのは当たり前なのだが、静過ぎると自分の存在が浮き彫りになってなんとなく嫌だった。
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