目覚めるとそこは真っ白な部屋だった。
数回瞬きするが、見慣れない場所のようだ。
ぼんやりと周りを見ながら今の状態を確認する。
ベッドと反対側の壁際には開けていないタンボールが3つ。その横にスクールバッグがあって、壁には真新しい制服がかかっている。
ああ、そうだ、僕は一週間前にここへ来たのだ、と思い出す。
「ここを出る気はないか?」
苦々しい表情の先生が、真剣な表情で言った。ついに施設を追い出されるのか、と人ごとのように考えていた。
「…俺は君が責められているのを黙って見ているなんてできない」
施設の空気を壊している自覚はある。
ここのみんなに責められてもおかしくない仕打ちを、僕はしたのだ。
僕はいい。いつかは施設を出ていかなくてはいけない。それが少し早くなっただけのこと。
「先生、」
「君は悪くないんだ、君は…」
この先生はお人好しだ。痛みを知っている、優しい人。
「その話はもう1ヶ月も前に終わりました。そうでしょう?」
「…わかった。もう言わない、本題だ。青鈴(せいりん)学園に入学しないか?」
「青鈴…」
確か都心から少し離れたところにある学園だったような気がする。
偏差値は全国でもトップクラス。スポーツの大会でもそれなりの成績を残している。
幼稚舎から大学院まであり、中学から大学までは寮生活を義務付けられているらしい。
就職率もよく、その就職先も一流企業がほとんどだ。
「あそこは全寮制だから住む場所には困らないし就職率も高い。教師も生徒もレベルが高いところだ。学力も君なら十分通う資格がある」
「でも、」
嫌なはずはない。自分にとってはむしろありがたい申し出。しかし、だ。
今日は4月1日。受験はすでに終わり、僕は地元の学校に通うことになっている。今更変更はできないだろう。
そして一番問題なのはお金だった。実は青鈴といえば、そこら中の社長令息が集まる金持ち校としても有名だったりする。
「そんな顔しないで、言いたいことは分かってるよ。学園の理事長が俺のクラスメイトだったんだ。それで、君の話をしたらね…『この成績で地元の学校だと?勿体ねぇ!俺の学園に連れて来い!』って言われたよ」
「はぁ…」
随分自由な理事長さんだ。
「特待生で迎え入れるって言ってたから学費は全額免除。だから心配することはないよ」
どうする?と優しく問いかけられた。
答えなんて決まってる。
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