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VOC@LOID
☆Not Found


気が付けば、銀色の雫が体をたたいていた。
寒さも感じなくて、ただ暗かった。

なにか、物足りなさを感じた。

俺はvocal andloid…通称VOC@LOID。
俺の名前は鏡音レン。
俺の存在理由は…歌うこと。

そ  の 他    は?

「……ぁ…」


俺はなぜこんなところにいて(わからない)
俺のマスターは誰なのか(もしかして)
俺はなぜ雨にうたれていて(俺の記憶は)
なぜ捨てられているのか(消去、された…?)


アンインストール。

その言葉が、闇の中で光を放っていた。





「ねぇっ、ちょ、大丈夫っ!!?」
「……?」
「あぁもうこのショタっ子どうしようぅ…見たところボカロだけど誰のか分かんないしいっ…。てかこれレンきゅんだよね?鏡音弟ですよね?」

なにやら独り言を言って…


鏡音、弟?

俺は、鏡音、レン。


俺に、兄姉がいるの?

「あ、起きてた…?」
「…」
「ねえ、えっと…鏡音、レンくんですよね?」
「…ん……」

なにやらおどおどしている、まだ小学生くらいの女の子はたずねてくる。

「ねぇ…俺のこと知ってるなら、仕事頂戴?」
「え…?」


なんでもよかった。

なにもみつけられなかった、暗闇から抜け出せるのならば。



少女の家はあたたかかった。

俺に、不釣り合いなほどに。


しばらくして、俺はミク姉にきいた。

「ミク姉は、俺の兄姉を知っているの?」
「えっ?」

自分のことを他人にきくなんておかしいんだろうけど、ミク姉は答えてくれた。

「リンちゃんでしょ?知ってるよ、会ったことはないけど…。確かレンの双子の姉で、ショートカットで金髪、トレードマークは白のリボン!どう?合ってる?」

どうやらミク姉は、俺が姉の知名度を調べているのかと思ったのか、逆にきいてくる。

そんなの、俺が知りたい。


「合ってるよ、すごい」

その双子の姉…リンなら、

今俺が作り笑いしているって分かっただろうか。






「レンおはよぅっ!!」
「…おはよう」
「元気ないなあ、なんかむなしい」

しゅんとうなだれるマスター。

そんなこといわれても。
元気なんて魔法、解けてしまったから仕方がない。


「ん?お前、そいつって…」
「レンだよー!兄ちゃん、鏡音欲しいっていってたでしょ?」
「…買ったのか?拾ったのか?」
「後者ー。小学生に高いものは買えませーん」

どうやらマスターの兄らしいその人は、あとで借りるとかいいだした。
ここ2、3日で一応勘は取り戻しているから、大丈夫かななんて思った。


ただ、歌っても楽しくはなかった。

心に残っている鉛がとれなくて、とても苦しい。

リンがきたら、変わるのかな?



歌い終わると、マスターの兄は、なにやら考えこんでいた。


「……もういい?」
「鉛」
「は?」
「鉛、取り出してやろうか?」
「鉛?」
「例えだよ例え。おまえ息苦しそうな顔してんなよ。ボカロのショタ担当なら無邪気でいればいいじゃんか」

無邪気?
そんなの、知らない。

「なあほら、ここに耳当ててみ?」
「…?……心臓の音しかしないけど」
「つまりこれがリズム」
「はい?」
「んで、」

窓を指さす。正しくは外の音。

「これが音楽」
「…だからなにいってるのか」
「最後」

かったるしそうに笑う、マスターの兄。

「お前の声が、歌で、お前のセリフが歌詞」
「___…」

狡いと思うのは、彼の意図がわかったから。
世界中にあるどんな音でも音楽になる。
世界中のどこになくても歌詞になる。
そしてそれを紡ぐのは、喋るときみたいに気楽でいい。

「それでその歌詞を作るなら、どうせなら明るい歌詞のほうが良いと思う」

お前の言葉が歌詞になるのなら、明るい言葉で明るい歌詞にしよう。

彼は、そういっている。



「…できない」
「どうして?」
「VOC@LOIDは、人じゃないから」

しょせん俺らは偽りの魂。

「俺らは意志もなにも持たない、ただの機械だ」

機械は、モノ。

モノに感情はいらない。

不意に強く抱きしめられて、それでも彼も俺もなにも言わなかった。

「(熱い…)」

腕が熱い…暖かいというべきだろうか。
いっそ、もっと熱くなって。

そして、鉛だけでなく心ごと…魂ごと、いや、俺の存在ごと灼き尽くしてもらえたら、どんなに楽だろう。


双子のリンの姿は、まだみてない。




「レン?」

……………。
レン、じゃないよ。

「…びっくり、した?」

当たり前だろ。

「……」
「……」

あれほどリンは俺にとってプラスな存在だと思ってた。
でも、だめだ。
お互いがお互いの気持ちを分かっている。

“双子なのに、初めて会った?”
“記憶(データ)が消されていたから正しくない”
“でも記憶(おぼえ)がない”

わたしは。

おれは。

どんな顔で接していたのだろうか?


リンが、きた。

それは、期待外れの存在だった。



「…マスター?」
「こんばんはーリンちゃんっ♪あれ、レンは?」
「レンは、お兄ちゃんのとこ」
「おぉちょーどイイ。リンとはなしたかったことがあったんだよ!!」




「…なに?」
「正直に言うけど、あいつは違うぞ」
「なにが」
「お前と、仲良くしたがっていることが」

なんでそれを、…他人になんか言われなくちゃいけないんだ。(そんなこと知ってる)
お前には、関係ない。(俺とリンは違う)

双子なのに。

「我慢すんなよ」
「…してない」
「じゃぁお前はどうなんだ?」
「仲良くなくても、歌は歌える」


パズルなら違うカタチのもの同士がハマる。

なのに、俺らは違うのに。


ぜんぜんハマらない。





「レンはね、要らないコ。でもリンは、要るコだってマスターは言うの」

一度、そんな話をした。
マスターはそのとき、リンと過ごす最後の時間を過ごしていた。

「レンは、滑舌が悪くて、歌いにくいってマスターは言うの」
「…リンは?」
「リンは高い声がよく出て、かわいいって言ってくれるよ」
「リンは、レンに会いたい?」

こっくり頷いたリンの頭を撫でて、リボンを付けてあげると、くすぐったそうに微笑んだ。

「捨てるなら、買うなよ」

斗輝は睨む。
リンは自分のマスターに向けて、なにか呟く。
二人とも同じ人物をみているのに、感情は全く違う。

「やっぱりお前にとってボカロは“ソフト”でしかないんだね」

静かに彼は耳に言葉をかたむける。
薄く、笑いながら。

「大嫌いだよ…同級生とも思いたくない」

「僕は好きだよ?」


幼馴染の家を飛び出した。







「リンは、なにが好き?」
「みかん、バナナ、ロードローラー…、……レン」

マスターは、最後のつぶやきに笑い、布団をバシバシたたく。

「いーないーなあ!!すぐにそんなに思い浮かんでッ」
「マスターは違うの?」
「昔はね、ひとつも思い浮かばなかったよ」
「…どうして?自分のことなのに」

不思議そうにリンがこちらをむく。
マスターは目を閉じて、話をする。


「誰だって、そういう時期があるんだよ、人間はね…。
 でもね、私はボカロじゃないからボカロもそうなのかはわからないよ」

でも、と目を細めながらマスターは言った。


「もしかしたら、そうなのかもね」


「リンちゃんはさ、レンじゃなきゃダメなことってある?」
「…ある、よ」


さっきよりかは、芯の強い瞳でリンはマスターをみる。
そして、透き通る蒼の瞳はまっすぐ、自分をみつめている。

「なら、よかった。…今日はもう寝よっか。十一時過ぎちゃったし」
「うんっ」


明日になれば、きっと仲良くなれるはず。

その日は、レンと唄う夢をみた。

二人とも幸せそうにロードローラーに乗って、メガホンを持って思いっきり唄う夢。


予知夢になるかどうかは、まだわからない。











暗闇の中、みつけた白い手のひら。

それは黄色いマニキュアを塗っていて

それは俺の手にも塗られていて


不思議と 悪くないなって思った。

その手をとると、手の主はわらう。


その笑い声がひどく懐かしく感じた。



暗闇の中でなにもみつけられなかった。

それは、傍にあるから。

下らない強がりで振り向かぬまま、

俺は歌を唄いつづけていた。


けど肩をたたかれて

反射的に振り向くと

強ばっていた顔は自然と笑顔。




手の主は、笑ってこう言った。


それは短い言葉だけれど

一生求めて、忘れない言葉。


『大好き』

なんて。







end

前サイトより。




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あきゅろす。
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