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ドラゴン・バスター
第一章 5
竜一は立ち上がるとリリスの前へと移動し、大剣を構える。

あちらは銃でこちらは剣。圧倒的に不利に近かったが、この距離なら弾道は完全に見切れる。そして何より腰のベルトには未だに糸が絡みついていて銃も弾も用意には取り出せないのだ。しかし竜一には自信があった。この不利を奪回し、あの男達を退けられる自信が。

男たちは四人。弾道を見切りながら近寄り、手足を斬ればそれで終わる。

リリスを守ろうという思いが、人間に武器を向ける理由をつくった。

「……おい、お前ら!」

流れていた沈黙の壁を突き破り、竜一は叫ぶ。

「一体何者だ? こいつを狙ってるんだろう? 何でこんなことをする、政府の人間なのか?」 「そんな質問、答える気はありませんよ。」

四人の男たちの中心から長身の一人の男が現れる。

「私たちはその家出娘を連れ戻しにきただけです。あなたこそ何ですか? 見たところドラゴン・バスターのようですが……」

「ああ、俺はドラゴン・バスターだよ。それがどうした?」

「たかが一人の人間如きが、我々の計画を邪魔するつもりですか? その少女の力についてもろくに分かってもいないくせに」

「計画? 力? どういう意味だ、それは!」

「あーもう。いいですよ。どうせあなたみたいな人には私たちの考えなんて分からないでしょうしね」

「ちょっと待て、それってどういう意味だ!」

「言った通りの意味ですよ」

「お前、さっきからことごとく人を馬鹿にしやがって」

「リリス!」

男は竜一から視線をずらすと、少女の名前を呼ぶ。

「こっちに来なさい。研究所の皆さんは心配しているよ」

リリスは、自らの体を抱きながら首を小さく横に振る。

それを見た竜一は安心し、男の方を向きなおす。その顔にはさっきまでと違い、自信の光が満ち溢れていた。

「残念だったな。リリスはお前らとは帰りたくないってよ。世の中なんてそうそう都合よく回らないんだよ!」

男の眉間にしわが寄り、噛み合わせた歯からぎり、という音が響く。

「だから他者への接触は避けるべきだったのだ。このままでは……人間として覚醒してしまうではないか」

「ん、何か言ったかあ?」

「いえ、別に……リリス、あなたがそのまま逃げるというなら、あの時のようになりますよ?また見たいんですか? 自分の大切な人の、喰われるさまを」

リリスの肩が一瞬びくっと浮かび上がった後、がたがたと震えだしていた。

「リリス、どうしたんだ?」

竜一はリリスに尋ねるが、リリスの体は恐怖に染まっていた。

「もう嫌でしょう? あんなものを見るのはさ。戻ってきなさい、そうすれば、その人はああならないことを約束しましょう。」

「…………っ!」

リリスは、ゆっくりと立ち上がった。泣きそうになる思いを必死にこらえながら、男達の方へと歩いていく。

「リリス……っ!」

竜一はそのリリスの泣きそうな顔に衝撃した。

「嫌、もう嫌。あんなの、もう見たくないの」

リリスはうわ言のように呟きながら歩いていく。竜一は少し迷った後、その肩を掴んだ。

「離して……」 

「嫌だ」

「離してよ」

「嫌だ」

「もう嫌なの。私のせいで誰かが死ぬのはもう嫌なの!だから、だから離して!」

「駄目だ!」

 竜一はリリスを怒鳴りつけた。リリスの頬には一筋の涙が伝っていた。

「リリス、逃げちゃ駄目だ」

「離して、よお」

リリスの声は震え、体も震えていた。

この少女を守りたい。竜一の思いは強く、固まっていた。

竜一は肩を引くとその体を抱きとめる。背中に手を回し、耳元に口を持っていく。

「俺が守るから、な? 怖がるなって」

「……う、うう、うあああああああ!」

リリスは声を出して泣き始める。心のダムは完全に壊れ、悲しみの思いが次から次へと溢れ出してきた。

「…………全く、困ったものですね。懲りるという言葉を知らないのですか、あなたは」

「黙ってろ! リリスは連れて行く。邪魔はさせねえぞ」

途端、竜一は振り向き走りだす。

「くっ、追え! 男は撃ち殺しても構わんし、リリスも多少の怪我なら研究所の方で治せる。とにかく追え!」

男達は走りながら銃を構える。

竜一は背中に大剣を構える。これなら狙いもつけにくく盾代わりにもなるはずだ。

手を引き走る二人は、できるだけややこしい道を走っていた。しかし、男たちは撒けずに、ずっと追いかけられていた。

「…………きゃあっ!」

でこぼこの砂利道に入った瞬間、リリスはつまずき転んでしまう。

「リリス!」

竜一はすぐに振り向き、しゃがみこむ。

「大丈夫か? 走れるか?」

「うん、大丈夫……ぐっ!」

左足の大きな擦り傷と切り傷に起き上がろうとしたリリスはまた倒れる。

男達の足音が少しずつ大きくなっていた。

「……くそっ!」

竜一は一声吐き捨てるとリリスの体を抱き上げる。

「あ……」

「こうすりゃいい。行くぞ、つーか行け! 俺!」

竜一は自分で自分を励ますと、さっきよりも早く走り出した。

走り初めて数十分後……。

二人は、一人の少年に会った。


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あきゅろす。
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