ドラゴン・バスター 第一章 1 夏真っ盛り。そんな言葉が似合いそうな空の下で、北条竜一は椅子に寄りかかっていた手足と頭をだらしなく下げるその姿は道行く人々に骨のついたクラゲを連想させた。 もちろん本人はそんなことに気づくはずもなく、だらしのない骨つきクラゲを続けるのだった。 「…………暑い。何だよこの暑さは! 二年前はこんな暑くなかったじゃねーか!」 竜一は雄叫びを上げながら更に体勢を崩す。高層ビルの壁面に設置されている電光掲示板が目に入った。今日のこれからの天気予報が始まっていた。 夜中までの天気は晴れ。当然といえば当然なのだが、それでもやはり竜一にとっては苦痛だった。 「ああ、晴れるよな。晴れちまうよな。ああ……最悪」 竜一は呟きながらも電光掲示板から目を離さない。 電光掲示板の天気予報は現在の気温を出そうとしていた。 現在38℃。 「さんじゅうはち……って、何だよもう。異常気象だ、温暖化だ、ヒートアイランド 現象だ〜〜〜〜、畜生――――っ!」 竜一は叫びながら手足をばたばたと動かす。 「あの、お客様」 ウェイトレスの若い女性が竜一の側へと歩み寄る。 「静かにして頂けないでしょうか?」 竜一はばたばたさせていた手足を止める。 「すいません」 ウェイトレスは軽くお辞儀すると店内へと戻っていく。 ここは日本。 昔東京と呼ばれていた場所、今は新江戸と呼ばれている。 世界には、謎の生物〈ドラゴン〉が溢れているのだ。 きっかけは、アメリカのグランドキャニオンに落ちた一個の流星。 その名は〈イヴァルヴ〉。〈進化〉の意味を持つ言葉だった。確かにそれは世界の生物を進化させた。食物連鎖の崩壊と引き換えに。 〈イヴァルヴ〉は地球に落ちる時、地球上に謎の光をばら撒き続けた。そして、〈イヴァルヴ〉の落下から一ヵ月後、最初の事件が怒った。 〈イヴァルヴ〉の初期調査へと赴き、現地にキャンプをつくっていた国連の調査団がことごとく謎の変死を遂げたのだ。その死体は体中膨れて血が噴き出した、とても無残な姿となっていたという。 更にその一週間後、世界史史上最も大きな事件が起きた。謎の進化を遂げた生物達が世界中の都市を襲い始めたのだ。 大中小様々、更に陸海空を支配するその生物達に出遅れた人類は瞬く間に全世界の三十%が支配された。 それから数年、人類と形式名〈ドラゴン〉達との存亡をかけた戦争が始まった。 そして十五年前、世界政府は〈バスター・ギルド〉の発足を表明した。 ドラゴン・バスターとは、バスター・ギルドに入ってくる人間のことである。戦闘力、知能、その他の秀でた才能。その三つのどれかさえクリアすれば入れるという簡単なものだった。それもそのはず、バスターには危険に見合うほどの給料はなく、何よりも生存確率が四割以下という危険なものなのだ。 捨て駒なのだ、世界の。 「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い。ああ、暑い」 竜一はテーブルの上のコップを取ると、それを一気に飲み干す。 冷たいその感触が、渇ききっていた喉を魔法のように潤していった。 「ああ、気持ちい――」 魔法の水で骨付きクラゲは人間へと戻った。 冷静さを取り戻した竜一は崩れていた体勢を元に戻し、周囲を見回す。 北条竜一もドラゴン・バスターの一人であり、ドラゴン・バスターで形成された小グループ〈LittleWing〉の現隊長である。彼らのリーダーだった内藤彰が二年前謎の失踪をしたため、彼の捜索ついでに世界中を回り、今はここ日本にいるのだ。(ドラゴン・バスターは〈ドラゴン〉退治のために、その九十%以上が世界中を回っている。) 「…………ん?」 竜一の体が石のように固まった。 通りの中を、一人の少女が歩いていた。金色の長い髪に小柄な体型。ドレスのようなその服。 [次へ] [戻る] |