ドラゴン・バスター プロローグA 換気扇の回る音が聞こえる。小さな風を巻き込んでいく音の響く中で、俺は目を覚ました。上半身を起こし、周りを見渡す。 灰色の壁に囲まれたその空間には今自分が寝ているベッド以外何も置いていなく、右奥にあるドアを除けば窓も無く、まるで監獄のようだった。天井の照明に目を向けるが、その眩しさに思わず目を閉じる。 数ヶ月ぶりに見るかのような光だった。眩しさは目を閉じ視線をずらして尚、目の中に残っていた。しばらくの間は、太陽を見た後のように目に映るもの全てが霞んで見えた。 それからしばらくして、ドアを開けて一人の男が入ってきた。ベージュ色のトレンチコートと帽子を身に着け、髪を掻きながら俺の方へと歩み寄ってくる。 俺はその男を知っている。どこかで会ったとかそんな軽い関係じゃなく、何と言うか、上司のような人だった気がする。 …………思い出せない。記憶が頭の中で絡み合い、一個だったはずの記憶の毛玉はバラバラにばら撒かれていた。 「ああ、大丈夫か、竜一?」 竜一、と男は言った。北条竜一という名前は俺の名前だ。由来とかそんな詳しいことは覚えてないし、覚えていた記憶がない。 「あなたは、誰ですか?頭の中が混雑していて、あまり覚えていないんです」 そう言うと男は悲しそうな表情を浮かべ、すぐにその表情を直す。 「俺は内藤彰だ。お前の、まあ一応上司のようなものさせてもらってる」 「…………はあ、そうですか」 俺はそう生返事を返すと、肩を落とした。 「……何も、覚えてないのか? 野望修司という名前に聞き覚えは?」 「野望、修司……………………………………すいません、思い出せません」 「いや、いい。じゃあ、リリス・R・ハーテッドという名前に、聞き覚えは?」 「リリス……………………」 その名前を心の中で繰り返し口にする毎、心の奥にある何かが騒ぐ。記憶の糸が少しずつ編みこまれていくような気がする。記憶の毛玉はもうすぐ完成しようとしている。 ちょうどその時、ドアを開けて一人の少女が入ってきた。金色の長髪に、ドレスのような服を着た少女。 「…………竜一」 自分を呼ぶ少女の声が、自分の胸の奥に眠っている最後のピースを呼び起こした。しかしそれは、決して優しいものではなかった。ピースが毛玉の一部となり、完成した瞬間信じられないほどの激痛がその頭を駆け抜けた。 「あぐあ、がああああああああああああああああああああああああああ!」 体が自分の物では無くなってしまいそうな激痛に、身悶え、ベッドの上をのた打ち回る。腕に刺されていた点敵の針は抜け、内藤は必死にその体を押さえた。 激痛の中で、少しずつ記憶が戻ってきていた。 俺は、あの時…………何が、どう……なって………………。 [戻る] |