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憐愛
愛憐2

伊月さんと姉は高校二年の時から付き合っていて、とても仲が良かったし、幸せそうだった。
家に遊びに来て初めて会った時、一卵性で姉と良く似た僕に凄く驚いていた。
僕は生意気な態度が多かったと思う。でも直ぐに打ち解けて、家に来てくれる日が楽しみになった。
伊月さんはいい人だった。
姉と伊月さんとの関係は四年間ずっと途切れる事なく続いて、このまま結婚するだろうと誰もが思っていた。―今思うと伊月さんもしたかったに違いない。
姉が短大を卒業したらプロポーズすると言っていた位だし。
しかし姉が短大を卒業する年に伊月さんは姿を消した。僕が短大二年になる春だった。
3月31日と4月1日
双子なのに日を跨いでしまったせいで学年が一つ違う。理不尽過ぎると思う。

姉から毎日の様に伊月さんとの事や今日思った事、ノロケ話、デートの話なんかは勿論毎回事細かく―を聞かされていたから。今じゃ伊月さんの食べ物の好き嫌いや考え方まで、なんと無く分かるようになってたから。

きっと姉に自分が弱っていく、みっともない姿なんて見せたく無かったんだろうな。
―苦しかったかな?痛かったかな?寂しかったかな?辛かったかな?…僕なら傍にいても良くなかった?

一度だけ、伊月さんが情けない様な困り果てて疲れている様な状態になっていた時のときにバッタリ会った時がある。
いつもしっかりしていて明るく格好いい伊月さんしか知らなかった僕は、吃驚したけど同時にドキドキして、自分が思ってしまった事に愕然とした。―伊月さんが好きかもしれない

姉と些細な事で大喧嘩となり、別れ話にまでなっているんだという。
「姉ちゃんは甘ーい林檎のタルト買って持ってったら直ぐ機嫌治すからさ!」僕は必死に話を聞いて、励まして、とっておきの姉ちゃん攻略情報を教えていた。…伊月さんとの繋がりは姉しかないから。

伊月さんはじっと僕を見たあと、「…ありがとうなっ」と頭にポンッと手を乗せ優しく笑って言ってくれた。僕は恥ずかしいやら嬉しいやらで、赤くなってしまったであろう自分の顔を見られまいと直ぐに走り去ってしまった。
無事によりを戻し、姉は上機嫌で僕に報告してきた。「私の好きな林檎タルト沢山持って謝ってきたわ、やっぱり彼最高!!」
…胸が少し痛いと思った。(でも伊月さんは姉ちゃんにはこんな見せて無いのかもしれない)
それ以来伊月さんは姉関係で心配事があった時とかに僕に相談することが多くなった。
前より伊月さんとの距離は縮まった気がした。

…距離だけ。

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あきゅろす。
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