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アベミハ大学生シリーズ
13P


こないだの雨の日…。
阿部君、ヘンだった。
傍にいたいのに、ちょっと避けられてるみたいで。
けれど、阿部君ギュッてしてくれて、キスもしてくれたから。
気のせいかもって考え直して。

でも、あの日。
阿部君、眠ってなかった…よね。
オレ、夜中に目が覚めた時、阿部君が起きてるの、気付いてたんだ。
目瞑ってしばらくじっとしてたら、阿部君、布団から出ちゃって、そのままで…。
朝になっても、オレは阿部君に何も聞けなくて、阿部君も何も言わなくて………。

あの夜の阿部君コト、ずっと気になって。
けど、それからも阿部君がくれるメールは、いつもとおんなじで、文字だけ見てもよく分かんなくて、ちょっと困った…。

一人でぐるぐるするのは、オレの悪いクセだって阿部君、いつも言ってたから。
それ思い出して、ぐるぐるすんの止めよう。
阿部君を信じようって思ったんだ。

強化練習が急に決まった時、阿部君ち行けなくなって。
メール送ったけど、阿部君どう思ったかなって、すごく気になり出して。
帰りに電話したら、阿部君怒ってなくてビックリした。

でも、阿部君…。
会えなくて嬉しいかって…オレに聞いた。
そんなこと聞かれたことなかったから、オレすごい慌てた。
悪酔いしてんだって、阿部君すぐに謝ってくれたけど、それならそれで心配で。
だから、阿部君ちに行きたかったのに、阿部君、試合が近いからダメって言うし。

オレ、やっぱり避けられてんのかなって、泣きたくなった。
もう大人なんだから、簡単に泣いちゃダメなのに…。

でも、だから、なのかな。
阿部君は、いつまで経っても変われないどうしようもないオレに、がっかりしたんじゃないかなって、気がして。

いくら阿部君が優しくっても、ずっと甘えられたらきっと疲れる。
そんなだから、オレじゃダメだったのかなって…。

それでもオレ、やっぱり諦めらんなくて。
だから、次の日思い切って阿部君ち来たんだ。
でも、阿部君いなかった。
待ってもなかなか帰ってこないから、心配なって電話して。
そしたら、友達んちに居るんだって、阿部君帰らないって。
オレもここに居ること言えなかったから、適当に返事しちゃったけど。
泣きそうになるの、本当はガマンしてた。
他に好きなヒトできて、そのヒトと一緒に居るのかなって…思った。

もう、このまま会えなくなるのかもしんないくらい阿部君が遠く思えて…。
阿部君の部屋がいつもはあったかいのに、昨日はとても余所余所しくて。
阿部君の心ん中だけじゃなくて、ここにもオレの居場所もう無い気がした。

これからどうしようかって、一人でまたぐるぐるした。
阿部君がダメって言ったら、本当にもうそれで終わりだから。



でも、でもね。
それでもオレは―





翌日、熱が下がったオレは昼から大学へ行き、とりあえず相棒に礼を言った。



「あんなに弱ってたのに、もう復活かよ〜。
もう少し、平穏な日々が遅れると思ったのになぁ」

「てめェは、オレの存在に関係なくいつもお気楽にやってんだろ」

「うわっ、酷ェな!
ちゃんとお前の心配してたんだぜ?!」

「どうだか」



結局はいつものような掛け合いで収まり、オレはヤツとは離れた席に座る。
どうせ、放っておいても用事があれば犬のようについてくるのだ。



「昨日の講義のノート、貸して欲しい?」



案の定、憎らしい笑顔を浮かべながらオレの前に立った相棒は、ノートをひらひらとちらつかせる。



「貸せ」



オレはヤツからノートをふんだくってから、そう言った。



「ちょっ、本当に横暴だな〜!
貸してください、は?ありがとうございます、は?」

「貸シテクダサイ、アリガトウゴザイマス」

「うわっ、棒読み!!
それが、亭主に対する態度かよ?!」

「あ〜、うっせェからあっち行け!!」



そう言って頭を抱えていると、急に昨日の記憶が蘇った。

撫ぜるようにオレの髪を梳きながら乾かしていた三橋の手。
背中に伝わる温度。
少し甘ったるく聞こえてくる、たどたどしい声。



「……阿部、キモイ」

「は?」



相棒が不審げにオレの顔を覗き込んできた。



「三橋に話をしただけで、そこまで復活できんのかよ?
三橋ってすげェな。
オレなんてこ〜んなに尽くしてんのに、いつまで経っても眉間に寄せる皺の数は変わんねェし〜!」

「これ以上煩くしたら殺す」



そう脅すと、今度は別の友人を捕まえてオレの非情を訴え始めたが、それは無視した。


バスルームでの一悶着の後、三橋はオレが眠るまで傍を離れなかった。
いつもより少し饒舌な三橋の声を聴いているのが心地良くて、いつまでも話をしていたいとさえ思った。
被った水のせいで風邪を悪化させることもなくて、夜に目を覚ました時には身体が少しだるいくらいで、後はもう何ともなかった。
けれど、オレの布団の隣になぜか寝袋があって驚いた。
オレが寝ている間に実家に取りに行ったのだと言う。
それがあればお泊まりできるよって、満面の笑みで言われてオレは言葉を失った。
けれど、寝る前に三橋が話したことを思い出すと到底無下にできなかったのと、オレ自身の意志の弱さが三橋の提案に白旗を振った。


三橋は、ドライヤーの音に掻き消されそうな声で、けれどオレの耳にちゃんと届く言葉をいくつも紡いだ。
この間からずっと悩んでいたこと、考えていたことを、時折涙声で話す三橋に胸が痛んだ。
こんなに苦しめていたなら全部話してしまっておけば良かったなんて、思うのはあまりにも今更で都合が良すぎる。



「これからどうしようかって、一人でまたぐるぐるした。
阿部君がダメって言ったら、もう本当にそれで終わりだから」



そこまで三橋を追い詰めていた自分の不甲斐なさを呪いたくなる。



「三橋、」

「でも、でもね」



急に声の調子が強くなって、オレは言いかけた言葉を思わず飲み込んだ。



「それでもオレは…やっぱり阿部君が好きだから。
だから………」

「…だから?」

「だから…、もしダメんなったら…。
今度はもっと頑張って…。
阿部君にまた、好きになってもらえるように、もっともっと頑張って。
阿部君に、もう一度会いに行こう……って」

「……」

「…あ、オレ、トロいから時間かかるかも、だけど」

「……頑張るって何を?」

「へ?
う…、えっと、あの、阿部君に心配かけなくて済むくらい、しっかりするように、とか。
それと、阿部君にあんまり甘えないように、とか。
で、料理とかもできるようになって、それで……え〜、とそれから―」

「手、止まってる」

「うおっ、ごめんなさいっ」



オレの指摘で、三橋は慌てて作業を再開する。

バカだな、そんな努力しろってオレ一回も言ったことねェじゃん。
いくら悪い方向へ考えてたからって、「オレのこと好きか?」って聞いて別れ話になんだよ。
だいたいそこまで覚悟決めたんなら、もう来ないとか言うなよ。

本当はそう言って頭を小突いてやるつもりだったけど、うまくできそうになかった。
泣きたくなるのを耐えるのに必死で、三橋にばれないようにするのが精一杯だった。
無茶苦茶で一生懸命な三橋の想いが、嬉しくて悔しくて仕方なかった。

三橋。
お前はお前なりに、オレとは全く違う考えや方法で、オレを想ってくれてんだよな。
それに気が付いてやれなくて、本当にごめんな。
やっぱ、オレはすげェ幸せ者だよ。

だから、次はオレが伝えなくちゃいけない。






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