アベミハ大学生シリーズ
2)
それぞれの大学生活を始めて早1年。
学校が違うから、生活リズムも微妙に違う。
お互い野球は続けているけれど、練習や試合の日程だって当然違う。
「オレの目覚まし、貸しときゃ良かったな」
昨夜、三橋はオレのアパートに泊まった。
二人の休みが合った時くらいだから、月に数回あるかどうかだけれど、一緒に過ごす時間が欲しくて三橋を泊める。
三橋の家にも行くこともたまにはあるが、アイツは実家通いだから、気兼ねなく過ごすにはこっちに呼ぶ方が都合が良かった。
明日は朝練があるから先に出るね、とか言いながら、携帯電話のアラームをセットしているのは見たが、正確にセットしたかどうかまでは見届けていなかったのが敗因か。
と、今更どうにもならないことを思いながら、自転車を出した。
「ご、ごめんね!」
「良いから早く乗れ!」
三橋がオレの両肩に掴まって後ろの車輪軸に足をかけたのを確認して、オレはペダルをこぎ始めた。
アパートから駅までは下り坂なので、すぐにスピードは増す。
「今日、何時くらいになんの?」
「ふぇ?な、何?」
「だーかーらー、何時に終わるんだ?!」
「あ、えと、7時!!」
「OK。
じゃ、晩飯一緒に食えるな」
「うん!」
駅までの道は街路樹が続き、新緑の間から洩れる朝の光は心地良い。
三橋は、この通りが好きだと言う。
初めてアパートに連れて来た時、この風景に見とれていた。
今も、三橋はオレの後ろで木々を見上げている。
「…もう、1年過ぎた んだ」
「何が?」
「何でもない よ〜、ふひっ」
三橋が何に照れているのか本当は分かったけれど、敢えて口にしなかったのは、オレも照れくさかったから。
「阿部君は、何時に帰ってくる?」
「あ〜、オレもおんなじくらいかなぁ」
「じゃ、オレいつものトコで、弁当買ってこようか?」
三橋が言っているのは、三橋の通う大学の傍にある惣菜屋の弁当のこと。
安い割にはボリュームがあってそこそこ美味い。
「そだな。
じゃ、頼むわ」
「うん!!」
朝練をサボった割には上機嫌だな…。
オレも、三橋につられて気分を良くした。
駅前のバス停広場に着くなり、三橋は自転車を飛び降りる。
「ありがとう、阿部君!
また、後で」
「おう。
ちゃんと前見て走れよ!」
そう言ったのに、振り返って手を振りながら走るから、こけやしないかと心配で、見えなくなるまで見送った。
「さて」
一旦帰って飯食って部屋を片付けたら、学校に行こう。
今日の夜も三橋と一緒に過ごせる。
それだけで、一日が楽しくなるような気がした。
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