アベミハ大学生シリーズ 1P 初夏の訪れを告げる7月。 心地よく空調が稼動している大学の食堂。 昼休みの間、オレは本気で悩んでいた。 正確に言えば、先週の夜から。 それは、他愛の無いチームメイトの彼女の話を耳にしたのがきっかけ―。 「最近さぁ、彼女が会ってくんないんだよな」 ロッカールームで帰り支度をしていた時だ。 そう誰かが言い出した。 「お前、何かしたんじゃねえの?」 オレの相棒が話題に加わる。 コイツは本当にこういう話が好きだ。 オレは、何の興味も無かったので着替えに専念していた。 「それが、何かする前だったんだよ。 次に会った時は〜なんて考えてたのがまずかったかなあ」 その言葉に、オレはつい反応してしまった。 他の奴らはソイツの話に興味津々だったから、誰にも気が付かれなかったが。 「『次は、俺んち来ない?』とか言ったんだよね。 そしたら、その時は曖昧な返事されてさ。 それきりってわけ……」 「バッカだなあ、それ絶対にバレたんだって!」 相棒は、所詮他人事だから楽しげに笑っている。 しかし、オレは笑えなかった。 それ以来、オレはバカみたいにずっとそのことばかり考えている。 オレと三橋は付き合って一年以上になるが、実のところ「そういう」関係にはなっていない。 ふざけ合って肩とか首筋にキスしたり、抱きしめてじゃれるみたいに身体に触れることくらいはするけれど、それ以上のことはまだない。 したくない、と言えば嘘だ。 それどころか、オレなんかは欲望の塊なんじゃないかと思うくらい欲求だけが募っていく。 けれど、それ以上に恐怖心が勝っていた。 男同士ですること自体にも、多少不安はある。 が、それ以前に大きな問題があった。 行為そのもの、というより役割、と言うか、立場と言うか……。 どちらかが、女のようにならなきゃいけない訳で―。 オレは、三橋を抱きたいと思う。 抱かれたいなんて思ったこともない。 抱かれるなんて考えただけでも気味が悪い。 でもそれは、三橋も同じ思いかもしれない。 アイツだって男だ。 女相手のようにアイツを抱けば、三橋は傷付くかもしれない。 三橋に想いを寄せてから、ずっとどこかで焦がれていたはずなのに。 心を通わせるようになった今、何ら問題は無いと思っていたのに。 もしかしたら、三橋はそういう行為をすること自体を考えたことがないかもしれない。 オレと付き合う上で、そんな気はさらさら無いとしたら? それもアリだろう、と考えることもあった。 身体を重ねることだけが愛情表現じゃない。 だから、オレもあまり気にしないようにしていた。 なのに。 最近、たまに泊まりに来る三橋の寝顔をすぐそばで見たり、寝息で耳をくすぐられたりすると身体が反応しそうで堪らない。 寝返りをうって三橋の身体がくっついてきた時なんか本当にいたたまれなくなって、隣で寝られなくて夜中に起きることもしばしばで……。 このままじゃ、どこかで爆発しそうだ。 本能が理性を上回るのは、時間の問題だろう。 でも、三橋に拒まれたら、失うことになんてなったらなんて考えるとまた躊躇してしまう。 フラストレーションはどんどん大きくなっていく。 だから、オレも覚悟をした。 今度、三橋が泊まりに来たら。 そしたら、オレの本音を言ってみよう。 無理強いはしたくない。 だからこそ、オレがそんな思いでいることをアイツは知っておいたほうがいい。 時間が必要なら、オレはまだ待てるから。 期限が分かっていれば、きっとこんなに不安にもならない。 しかし、もっと恐ろしい予想が頭に渦巻く。 絶対にしたくないって。 一生嫌だって言われたら……。 言われたら、オレはどうするんだろう。 そんなオレに追い討ちをかけたのは、昨日の三橋のメール。 「ごめんなさい。 週末に強化練習が決まって、そっちに行けなくなった」 オレはすごく落ち込んだ。 アイツはオレと違ってスポーツ推薦で進学したのだからオレより忙しくて当然だけれど、タイミングが悪すぎる。 またもや、三橋のようなネガティブ思考回路が活発化する。 (アイツ、もしかしてオレが欲求不満になっているのを気付いたのか?) だから、どこかの誰かの彼女みたいにオレをけん制している、とか? オレはバカみたいに、三橋の短いメールを何度も読み返す。 用件だけのメッセージに何か含みは無いかと勘繰ってしまう。 「お前、何さっきから同じメールばっか見てんだよ。 しかもすっげえ短いのに〜。 もしかして、別れのメール?」 気がつけば、相棒が後ろからオレの携帯を覗き込んでいた。 オレは本気で焦った。 「なっ! てめェ、何勝手に見てんだよ!!!」 つい力任せに、ヤツの頭を殴る。 「ってェ〜〜!! なんだよ、阿部の乱暴者! そんなだから振られんだぞ〜!!」 コイツ……、殴られてもまだ人を茶化すか。 とりあえず、相手が男だとかそういう処にまで気がつかれなかったようなのでほっとする。 そして、帰りに忘れずメールブロックを買おうと心に誓った。 [次へ#] [戻る] |