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アベミハ大学生シリーズ
15)


「昔のオレは、もっと純粋に阿部君が好きだったんだ、と思う」


オレたちは、窓辺に近い壁にもたれて何となく寄り添っていた。
オレが冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを口に含ませてから、三橋はゆっくりと話し出した。

三橋は俺の電話を受けた後、ずっと気持ちが晴れなくて、そんな自分はおかしいのだと何度も戒めようとしたのだという。


「だって、阿部君には阿部君の生活がある。
オレにも、オレの生活がある。
だからこそ、二人の時間は大切なんだ。
でも、いつの間にか阿部君とオレの時間を、オレだけの時間だと勘違いしていたんだ」


その勘違いを頭で理解できても、心が追いつかなかったのだと。
弁当屋でオレの分まで買ったのも、カクテルを大量に買い込んで飲んでいたのも、ただそうしたい衝動からだったと、三橋は自嘲気味に笑った。


「じゃ、空メールも?」

「心配してくれるかなって…。
でも、送った後すごく虚しくて、送らなきゃ良かったって何度も後悔したんだ…」


そういや、オレ結局あのメールには何のリアクションも返さなかったもんな。
今更、少しだけ胸が痛んだ。


「高校のときは、ただ阿部君の傍に居られただけで本当に嬉しかったのに。
オレはどんどん汚くなっていくんだって、そんな自分は最低だって思って…」

「ばっかじゃねェの?」


三橋は、オレの言葉にきょとんとした顔をする。


「そんな感情は誰だって持ってるし、お前は間違ったことはしてないよ」


あんな風に約束を反故にされて、気分を悪くしないヤツなんていない。
そんなんで汚ねェなんて言ってたら、オレなんかドロドロだ。
本当は三橋を束縛することしか考えていないなんて言ったら、コイツはどんな顔をするだろう。


「でもオレ、分かっていても以前のような自分には戻れないんだよ?
それは、とても我儘なことじゃないか…」

「いいよ、戻れなくて」


ある意味、オレには嬉しいことだ。
それだけ三橋の独占欲を強くさせているのが自分だというのなら本望だ。
新しく覚えた感情に三橋は追いつけていないのだろうから、これからゆっくり受け入れていってくれればいい。


「阿部君は、そんなオレ嫌じゃない、のか?」


三橋は、ペットボトルの中の水をじっと見つめている。
その中にお前には何が見えているんだろう。


「嫌じゃないよ。
そんだけ、お前がオレに惚れてるってことだろ」


茶化してやると、阿部君はやっぱり意地悪だと言って困ったような怒ったような複雑な表情になる。
オレは三橋のペットボトルを取り上げ、一気に飲み干した。


「ごめんな、三橋」

「何が?」

「約束破って」


真摯にそう言うと、三橋はようやく笑ってくれた。


「いいんだ、もう。
オレも悪いこといっぱいしたし、明日があるし。
それに…」

「?」

「阿部君に嫌われたんじゃなきゃ、それでもう、いい」


三橋ははにかんで俯いた。

どうして、コイツはこういうところでそんな可愛いことをサラリと言ってのけるのだろうか。
言われたこっちが赤面したくなる。
まだコイツ酔ってるんじゃないか?

顔を見られたくなくて三橋を引き寄せて胸に抱き込んだけれど、三橋の体温を感じた途端愛しさが込み上げて、自然に腕の力が強くなった。


「阿部君、お酒臭い」


色気のないこと言うよな。


「お前もな」


そう言って二人で笑った。

明日はまた二人で過ごすいつもの休日が始まる。
けれど、それが当たり前だなんて思っていちゃいけないのだろう。
最近いろんな感情を芽生えさせているように、三橋は日々変化している。
これからもお前を望むのなら、オレも変わっていかなくちゃいけない。

…とりあえずは、くだらない嘘から止めよう。




fin.

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あきゅろす。
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