[携帯モード] [URL送信]

アベミハ大学生シリーズ
14)
テレビから大きな笑い声が流れてきた。
なんて耳障りで無神経な番組なんだろう。
身勝手にもそう思ったが、リモコンを探す気にはなれなかった。


「……何、言ってんだよ。
訳わかんね…」


三橋はいつも言葉足らずだけれど、今言った意味を本当は分かっている。

聞かなければよかった。
言わせたのは自分と分かっていても、聞きたくなんかなかった。
三橋の言ったことに、オレは真っ向から反論できない。
些細なこととはいえ、嘘を吐いて、誤魔化して、独りにしたのは事実だから。

やっぱ、お前怒ってたんだ。
けれど、オレも今引く訳にはいかない。


「……我が儘で…、傲慢で、嘘…つきだ」

「三橋―」


三橋は辛そうに言いながら、更にオレを追い詰める。
話を逸らして適当なことを言って、いっそ寝かせてしまいたい。
もし、決別を突き付けられても今のオレには拒否権がない。
自分の非を認識しているからこそ、折れることができない。


「分かんなくなんか、ない。
…本当のことだ」


三橋はオレを見逃すどころか、頑なになる一方だ。

謝れば許してくれるのだろうか。
それとも、三橋の中では既に答えは決まっているのだろうか。


「どうして、こんな風に…なってしまったんだろう…」


三橋の声は消え入りそうだ。


―怖い。

三橋を傍におくことが幸福なのではない。
三橋がオレを受け入れてくれることが重要なのだということを、オレはいつから忘れてしまっていたのだろう。

「みは―」

「もう、元には戻れないん…だ」


今度こそ、決定的にオレを打ちのめすセリフを三橋は吐いた。
同時にオレの中で何かが切れた。


「何それ?
…お前、何が言いてぇんだよ?」


三橋を責めるのは間違っている。
理性的なオレは分かっているのに、本能の手綱が手から離れてしまった。
どんなに三橋が正しくてもオレは別れてなんてやれない。


「言いたいことははっきり言えよ!
そんなんじゃオレは何も認めねぇかんな!!!」


三橋は驚いて顔を上げる。
そこには絶望の色が濃く現れていて、オレは更に動揺した。


「何だよ、お前…。
そんなにオレが嫌なった訳?」

「え…?何―」


いつの間に、オレは三橋の心から消えてしまっていたんだろう。


「他に好きなヤツでもできた?
だから別れたいって?!」


許せない、許さない―。
身勝手と罵られても、お前を誰かに譲るだなんて絶対にできない。


「ちょっ、ま、待って、」

「絶対に認めてなんか―」

「あ、阿部君!!!」


先程までとは全く違う三橋の顔と大きな声に、オレの本能は面食らって引っ込んでしまった。
三橋は三橋で必死だったらしく、肩で息をしている。

…と言っても、お前ちょっと叫んだだけじゃん。
オレはなんだか気が抜けてしまって、おとなしく三橋の言葉を待つ。


「……阿部君、それ 何の話…?」

「は?」

「別れるって…オレ、が?
なん…で?」

「なんでって…?」


今、きっと二人とも同じ顔をしている。
互いに必死だったのに、どれ一つとしてまともな会話にはなっていなかったようだ。
目の前の修羅場が戯画にでも変わってしまったかのように、張り詰めた空気はあっさりと崩れ去り、まるでオレたちを鑑賞していたかのようにテレビから再び大きな笑い声が起きた。

座ってて良かった。
足の力が抜けて立てないのが分かる。

オレ、何か勘違いしていた…?


「……よかった」


三橋が小さな声でそう言って小さく笑ったが、一人勝手に暴走していた自分が恥ずかしくて、なにがよかったかなんて聞けなかった。




[*前へ][次へ#]

14/15ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!