触覚の復元

言葉を理解するまでの間があった。
理解して、納得するのは不可能だった。

「あ、の……それって……」

「もっと言うのなら、五体おりますわ。ルーシィ様と、常駐組の四人。いえ、サリー様も入れると六体ですわね。もっとも、彼女は旧式のゴーレムでしたけど」

「きゅうしき……い、いえ、そうじゃなくて」

とんでもないことを聞いた気がする。

常駐組の四人が。
――ならば、あの吸血鬼も。

立ち上がろうとしたルーシィをアンは片手でおしとどめ、隙だらけの頸動脈に再び針を刺しいれる。
戻りつつある触覚は裂けるような痛みを呼び起こし、無意識に呻き声があがる。

「ご安心くださいませ、ルーシィ様は新型ですわ。最新型の、特別製。一番の自信作になる予定でしたの」

「……ッよ、てい?」

首から、何かが注入される。火で炙った刃物を強引にねじ込まれるような、ひどい痛みだった。歯を食いしばり、喉の奥で叫び声をあげる。あまりの激痛に腕さえ上がらない。

触覚以外が蒙昧になる。意識が薄れる。目を開けているのかどうかさえ分からない。
それなのに、アンの声は確かな女声で耳朶を打ち、脳まで達して理解を促す。

「予定外のことが起こってしまったんですもの。宿るのが早すぎますわ、ルーシィ様」

全身が灼けるように痛い。指先も、爪先も、腹部も胸部も首筋も脳も、すべてが熱い。いや、冷たいのかも知れない。分かるのは明らかに異常で無謀な何かの侵入。
身体が動かない。暴れて逃げ出したいのに、叶わない。

「十三カ所も関節の処理ができておりませんの。眼球も錬金術とは無関係なもので、特殊性の不足が気になりますし……それより何より、似すぎなのですわ」

誰に、と訊こうとしたが、声が出なかった。喉も舌も声帯も、獣のような唸りしか発してくれない。

「直そうと思いましても、難題ですの。可愛らしく、美しくすることは容易ですわ。何度もやりましたもの。なのに、醜く、不器量にすることの難しさったら――」

アンは小さく頭を振ると、先程と同じようにピストンを引き上げた。ルーシィの体内に溢れていた水気が丁寧に吸い出され、人形は痛みの消失に気付く。

代わりに顕著になったのは、指先まで行き渡る確かな触覚だ。
クッションに使われた柔らかい布地の繊細さを手のひらで、ブーツに使われた少し硬い皮の冷たさを足首で。
清涼な空気と、名状し難い甘い香りを胸いっぱいに吸い込んで。




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