成分の調整

「じゃ、じゃあ、他にも――」

「いけませんわ。今喋るのは、あまり感心いたしません」

言って、アンは中身をルーシィの中へ注入する。赤みを帯びた靄のようなそれが半分ほど入ると、人形は苦しげに顔を歪めた。
痛みはない。ただ、疼くような熱さがあった。首筋に埋め込まれた虫が全身に回って一斉に蠢くような、ひどくおぞましい感覚。

「まあ、水が多すぎますわ」

アンは少し首を傾げ、すぐさまピストンを引きあげた。注射器擬きの中に、透明な液体が満ちていく。水だ。

飽和した水分を取り除いて針を抜くと、自然とルーシィの眉間に刻まれた皺は解れた。しかし、それでもまだ全快ではなく、どことなく蒙昧で不完全な不自由さがある。

「一体、どれほどの水を飲みましたの?」

「飲んでは、ないです。お風呂に入っただけで……」

今度はアンの眉間に皺が寄る。
すっかり水で満ちた注射器を鏡台に置き、また別の注射器に赤い靄を吸引していく。先程と同じように。

「それはまた極端な話ですわ。吸血鬼さんのアイディアですの?」

「いいえ、バルトです」

「まあ。全くあれは碌なことをしませんわね。……いえ、私にも原因はあるのでしょうけれど」

ルーシィが不思議そうに瞬き、それを受けたアンはばつが悪そうに言葉を続ける。揺らめく赤い靄に様々な色を加えながら。

「以前、あれが私の人形について訊いてきましたの。その時、四大元素の思想をベースにしていることや、欠けた元素を補えば元通りになることを簡単に説明いたしましたの。
でも、その頃の作り方はもうしておりませんの。ずっと前の、古い情報なのですわ」

「ずっと前、ですか?」

「ええ、ずっと前。ルーシィ様をつくらせていただくより、もっと前のことですわ」

「あたし以外に、人形がいるんですか?」

ルーシィは思わず身を乗り出す。椅子の横についた手に、若干の触覚が戻っていた。新品のクッションの、弾むような柔らかさを感じる。
ただし、若干。なので、まだ不安なことに変わりはない。

アンの持つ赤い靄を更に注入すれば、感覚が戻ってくるのだろう。
清涼な朝陽を浴び、それは脈動するような生々しさを伴って揺らめいて、きらめく。

「無論ですわ。私の身体も私の作品ですもの」




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