予備の物品

眼球、目玉、アイボール。何と言おうが同じこと。紛うことなく人体の一部分だ。

ただ不思議なことに、嫌悪や忌避は感じない。丁寧に磨かれたエメラルドのような、澄んだ美しさ、神秘性が強いせいかも知れない。
それにそっと手を伸ばす。

「触らずにいてくだされば、非常にありがたいですわ」

その声に振り向くと、六本の腕にたくさんの箱や容器を携えたアンがいた。四角い箱、円柱形の容器、細々したその他の荷物。
ルーシィは思わず手を引っ込める。

「っ、すみません」

「いえいえ。好奇心は悪ではございませんわ」

「あの、これは……もしかして」

エメラルドグリーンの目玉。同じ色だ。自分の――ルーシィの瞳と。

アンは容器をてきぱきと整理しながら笑いかける。

「ええ、ご賢察。ルーシィ様の瞳ですわ」

やはり。というのが、正直な感想だった。
しかし、だとすれば、今自分の眼窩に収まっているものは何なのだろう。鮮烈でまばゆい、この上なく魅力的な目は。

「とは言いましても、予備ですの。いえ、本当はそちらを用いるはずだったのですけれど」

「何かあったんですか?瓶、割れてますし……」

「瓶の破損は事後ですわ。鏡台の引出の中で……中身も無事ではありませんでしたの。どこかの悪魔の仕業かしら」

「……すみません。それ、あたしだと思います」

この部屋で、バルトに会ったときだ。前進する彼に追いつめられて後退し、鏡台に腰をぶつけたとき。
たしかに、派手な音がした。あれは瓶の割れる音だったのだ。

「あら、そうでしたの?」

アンは口元に手を添え、上品に笑う。その間も五本の腕は、容器を広げて作業を始める。
まず掲げた透明な筒は試験管に似ていて、しかし何も入っていないように見えた。

「構いませんわ。今のところ、ルーシィ様の瞳を取り換える予定はありませんもの。ただ、予備はございませんので、大切に使ってやってくださいませ」

ね。と言われ、ルーシィは頷く。そもそも、瞳を取り換えようと考えたことすらない。いや、ある方がおかしいだろう。




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