久遠の理由

青みを帯びた透明な陽光が、朝の区画を美しく照らしている。薄く靄の残る冴えた街は、刹那的なはずの清々しさを不自然に保っており、どこか不気味だ。

アンの家は相変わらず中途半端に白く塗られ、家の中は青い花柄の壁紙がまばらに剥がれていた。どちらも傍に塗料や刷毛、巻いた壁紙や接着剤が置いてあり、いわゆるリフォームの途中であることが窺えた。

「すみません、片付いていなくて。今は壁をすべて真っ白にしていますの」

「気分転換、ですか?」

ルーシィは仮説を立てる。常駐組は、自分の区画から出られないのではないか。同じ場所、限られた空間で限りない時間を費やさなければならない存在。
それならば、何らかの気晴らしが必要だ。ディルには虎がいる。でもアンには何もいない。
だから彼女は人形をつくり、家を改装する。時の長さに耐えきるために。

アンは困ったように微笑む。

「いいえ。これは宿命ですわ」

「宿命?」

「ええ。蜘蛛は巣を張りますでしょう?つまり、そういうことですわ」

要するに、本能、だろうか?
ならば、彼女は永遠に巣を張り続けるのか。
それはそれで、悲しいことだ。虚しいし、哀れだ。

――すべては、衣華の為に?

子供は残酷、とはよく聞く決まり文句だ。しかし、それが衣華にも当てはまるのだろうか。
悲しくなるほど明るい笑顔と、あまりに傲慢で絶対的なカミサマという立ち位置。果たして。

「準備を致しますので、こちらでお待ち下さいませ」

偶然か意図的か分からないが、通されたのはアンにドレスを着せてもらい、バルトと初めて会った、あの部屋だった。
光に満ちた室内に散乱していた色とりどりのドレスは片付けられ、影も形もない。鏡台の鏡と白い反射光、それに映る金髪の少女は何ひとつ変わっていない。

違っているのは鏡台に置かれた物品だ。以前は何もなかったが、今は割れた小瓶と丸いものが二つ転がっている。

白い球体だった。角度を変えて見ると、鮮やかな緑の円が見える。同心円状にもう一つ、濃い小さな円が描かれている、それは。

「眼、球……」



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