強気の指摘

「決まってんだろ。死んだらそれまでだ。俺がいない以外は通常通りに世界は回る。そして、いつしかそれが当たり前になる。それだけだ」

「それ、本気で言ってるの?」

「ああ。俺如きの不在で揺らぐほど、世界っつうのはヤワじゃねえ」

彼の青くて怜悧な瞳に、青白い光が鋭く閃く。単なる無表情にすぎないのに、形容し難い迫力がある。

それが自棄になっている人間と同じものだと、ルーシィは気付かない。分からない。
何故なら、知らないからだ。

「……あなたって、馬鹿なのかしら」

「は?」

「想像力が足りないのよ。あなたが死んじゃって、あたしが悲しむのを何とも思わないの?あたしを悲しませたいの?」

忌々しげにまっすぐ睨みつけてくるルーシィに、ディルは些かたじろいだ。返答に困ったその隙を、彼女は容赦なくついてくる。

「あたし、あなたがいないなんて嫌よ。絶対嫌。あなた、あたしが好きなんでしょ?あたしが嫌がることしないでよ。そういうの、口にされるのも嫌だわ。そんなことするなら先手を打つし、後を追っかけてやるんだから」

「止めろ。今はそう言っても、時間が経てば死者のことは忘れちまう。それが常だ」

それにな、と、ディルはルーシィの反論を制する。
矢継ぎ早に口をつく言葉は、何かを拒絶するかのようだ。たとえば彼女、あるいは、現実。

街中でやかましく言い争おうとも、何ひとつ変わらない、反応すらない、この現実を。

「お前の言う、先回りだの後追いだのは、依存だ。止めろ。依存してえなら勝手にすりゃいいが、俺みてえな下らねえ奴にだけは入れ込むな。お前の為にならねえ」

「……怖いのね」

「あ?」

不快感で露わに顔を歪め、ディルはルーシィを見やる。挑むような目つきで自分を見上げる彼女が、どういうわけかやたらに可愛らしく見え、彼は困惑し、ますます眉を顰めた。

「死んじゃうの、怖いくせに」

「は?俺がか?」

「そうよ。あなたはいつ死んでもいいみたいに言ってるけど、そんなの嘘だわ。そう言い続けることで、自分で自分を洗脳して、騙して、誤魔化してるのよ。
誰よりも死ぬのが怖いから、そんな、悟ったみたいなこと言って、平気なふりして。そんなの単なる自己防衛よ。怖いことから逃げてるだけよ」

「な、にを――」

「――まあ、素敵ですわ」

背後からの声。はしゃいでいるような、女声。
ルーシィが慌てて振り返ると、案の定、彼女がいた。黒いマーメイドドレス、高く結った黒い髪、物腰は上品で、六本腕。

「そこまでお分かりになるのでしたら、重畳ですわ」




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