意見の対立

「あたし一人で行くって、何度も言ってるじゃない」

澄んだ朝日に照らされ、ルーシィは憮然と言い切った。
褐色の街並み、煉瓦、数種の石を用いた石畳、冴えた空気。久しぶりに訪れた朝の区画は、以前と何一つ変わっていない。

「だから、お前回復しきってねえだろうが」

「アンさんのところよ?何とかなるわ」

朝と夜の境目を挟み、人形と吸血鬼が対峙している。朝側に人形、夜側に吸血鬼。
初めて時間帯の境界線を視認したルーシィは、物珍しげに、不安定な足取りでそこを数回行き来していた。が、今は朝から出ようとしない。

街灯と月光の点在する闇の中に佇む、漆黒のマントを羽織った青年は、重たく深くため息を吐く。

「いいから、俺もついて行くっつってんだろ」

そして一歩、彼が朝の区画へ踏み出そうとした途端。

「駄目!」

ルーシィが声を張り上げる。
ディルは不愉快げに顰眉し、再び夜の区画に留まる。

「あなたは来ないでって、何回言わせるつもりよ」

「知るか。大体、俺だって素肌晒すつもりはねえんだ」

そう言い、吸血鬼はもう一枚のマントを持ち上げる。黒い表地に赤い裏地のそれは生地も厚く、たしかにある程度の日光を遮ることができそうだ。

「甘いわ。布一枚で日光を遮断できるなんて、本当に思ってるの?」

「何もしねえよりいいだろ」

「死んじゃったらどうするのよ!」

再度、ルーシィは激情にまかせて怒鳴りつけた。

そして、気付く。
自分は、思っていたよりもずっと、このディルという男に依存している。彼がいないなんて考えられない。それは、喪失感を通り越し、恐怖ですらある。
実際、一人でアンを訪ね、問い質した後は、彼のもとに帰るつもりなのだ。その彼が朝の区画で灰になるなど、冗談ではない。

この、奇異なほど静寂な街に、彼がいないだなんて。




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