過剰な美貌
「ああ。苦しくなるし、何つうか、辛くなってくる。理由は分からねえ」
それはつまり、嫌いとか苦手という感情ではないのだろうか?
あるいは、恐れているか。
否定されたのだろうか?「俺を拒むな」と言ったはずの、彼に。
それが少し不愉快で、ルーシィは皮肉っぽく答える。
「その割には、避けたり拒んだりしないのね」
「んなことするかよ。別にお前を嫌ってる訳じゃねえ」
「嫌ってるんだと思うわよ。だって、苦しくて辛いんでしょ?しっかり拒絶してるじゃない」
「阿呆、逆だ。多分、俺はお前が好きなんだ」
「……は?」
あまりに軽く、特別な情感すらこもっていない語調。ともすれば、聞き流してしまいそうだった。
ルーシィは無防備に、ぽかんと口を開けてディルを見る。
訳が分からない。彼の真意が掴めない。
「おい、何か反応しろ。話、進め辛いだろうが」
拗ねたらしい彼に、ルーシィは慌てて返す言葉を取り繕う。
「あ、ご、ごめん……えー……しょ、正気?」
「ふざけてんのか?」
峻厳な眉間に不自然な皺が刻まれる。明らかに気分を害したようだ。
「ち、違うわよ。あなたが、変なこと言いだすから」
「変?お前、鏡で自分の面見たことあんのか?」
「もちろん。アンさんの鏡台で見たわ」
まず、極端に綺麗な顔だと思った。
繊細な金髪も、澄んだ碧眼も、清廉な顔立ちも。まるで覚えのない自分の容姿は、わざとらしいほどに可愛らしかった。
個人の感性に基づく好き嫌いなど関係なく、満場一致、すべての人々に美しいと感じさせることができるだろうとすら、思った。
非の打ち所がない。
それを踏まえて考えると――
「あなた、あたしの顔が好きなのね」
「あ?いや、まあ間違っちゃいねえが、そうじゃねえ。お前、見た目最高なんだから自信持てって言いたかっただけだ」
髪を掻きあげ、言いにくそうに目線を下向け、それでも彼は言う。
自信を持てと言われても、その身体は人形なのに。自分のものではなく、与えられただけのものなのに。
それを誇るのは、違うのではないだろうか。ルーシィはそう考え、少し憂鬱になった。
[*Back][Next#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!