不穏な予感
「あ、りがと」
「……ああ」
答えるディルはどこか上の空だ。
シャンデリアの灯が赤い髪の上で不規則に反射して、濡れたような輝きを見せる。
前髪の間に見える瞳が、鋭く眇められた。
「どうかした?」
「……いや、仮説だ。あくまで単なる想像で、根拠も何もないんだが……」
「何か、気付いたの?」
知りたい、と思う。
仮説だろうが想像だろうが、知りたい。
サリーの記憶や、それを失った理由、そして彼の過去に、繋がる可能性があるのならば。
「本気にするなよ。……俺は、過去のお前――つまり、あのガキの祖母と何らかの関わりがあったかも知れねえ」
「そう、なの?」
「だから仮説だ。真実じゃねえ」
目を丸くするルーシィをソファに座らせ、ディルもその正面に腰掛けた。
彼女がトロフィーに背を向けたので、必然的に彼はトロフィーを真っ向から見る羽目になる。
生え揃った毛並み、リアルな角や牙、ガラスの目玉。怖いとは思わないが、可愛いとも思わない。単なる装飾品だ。一階の応接間にある絵画と同じ類のものだ。
何故ここにあるのかは分からない。
分かるのは、内二つはフェイクだということだけ。
補足を期待している人形に目をやる。
そう、人形だ。創作物だ。だからこそ、彼女は異様に愛らしい。
果たして、自分が求めているのはその外観か、内面か。
彼は少しの時間、忙しなく指を組み合わせたり、眉間を揉んだりしていたが、腹を括ったらしく、続きを話しはじめた。
「お前、あのガキに会った時、泣いただろ?それはつまり、孫に会った祖母が感情を高ぶらせた結果だ。何の不思議もない」
「そうね。でも、あなたはあたしに会っても、泣いたりしなかったわ」
「まあ、な」
実際はバスルームで涙を流したのだが、彼女は気付いていないらしい。わざわざさらけ出す必要もないだろうとディルは口を噤んだ。
壁にかかった象の生首が、胡散臭げに自分を見ている気がする。おそらく、観測者の心情を鏡のように反映しただけだろうが、それでもあまり愉快ではない。
「泣く泣かないは兎も角、色々、引っ掛かることはあったんだ。お前を見てると、苦しくなるっつうか……」
「苦しくなる?」
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