唐突な本音

ルーシィは溜め息を吐きながらも前進を続け、そしてようやく突き当たりの壁に手で触れた。

そこで少し、顔をしかめる。
やはり、感覚が希薄だ。足はもとより、痺れたような指では、壁に手が触れたという実感がひどく曖昧で、動作が頼りなく覚束ない。

それを誤魔化すようにディルを見上げ、悲憤を装った口調で言う。

「あなた、本っ当に何も知らないのね」

「興味ねえんだから仕方ねえだろ。正直、あのガキにいい感情は持ってねえしな」

「え?」

思わず耳を疑った。

彼の口調は穏やかなのに、その内容があまりに非情だったからだ。
衣華のどこに好ましくない要素があるのか、まるで理解できない。

ただ、流石に予測していたのだろう、吸血鬼は訊かれずとも補足する。

「あのガキがこの街を創ったんだろ?本当かどうか怪しいが、本当なら、俺はあいつを恨むべきだ。何せ、夜っつう限られた空間に閉じ込められてんだからな」

「それは、そうかも知れないけど……」

この世界が創られて、どれほどの時間が経過したのかは分からない。
それでも、自らを常駐組と称した彼が、とても長い時を夜の区画で過ごしてきたのは理解できた。

壁についた自分の手を眺め、ルーシィは茫然とする。

不意に、薄いグローブに包まれた小さな手が、横から伸びる大きな手に掴まれた。
そのまま振り向かされ、間近に迫った吸血鬼の青い視線と、人形の緑の視線が鮮烈に絡み合う。

反らせない。

「気付いてんだろ?お前は」

「な、にが」

「世界は、ここだけじゃねえ」

逃げようと後退るが、反対の手に腰を捕らえられて動けない。
踊るような姿勢のまま、男は低い声で囁き続ける。

「言ってただろ?行方不明のサリーは、街の外に出たんじゃないか、って。
お前は、この街以外の世界の存在を確信している。違うか?」

「……ち、きゅう」

「へえ……ああ、確かに、初めて聞いた気がしねえな。

……?いや、違う。違う、これは」

ディルの表情が、見る間に険しくなっていく。眉間に皺が寄り、痛みを堪えるかのように顔を歪め、唇を噛みしめる。

青い瞳の深淵で青白い光が生まれ、何よりも確かに、美しくきらめく。

「違う、気じゃねえ。俺は確かに――」




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あきゅろす。
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