morning.9.0

目覚まし時計が鳴りだすよりも少し前、僕は目を開け伸びをする。

昨夜はどうにも眠れなかった。暗くたゆたう微睡みは、浅い夢にも届かぬままに、惰性で時間を食い潰す。

「おはよー」

突然聞こえた暢気な声に、不本意ながらも驚いた。
そう言えば、キキが夜中にこの部屋をこっそり訪れたのだった。

僕の隣で布団の間に挟まって、黒くてかわいい大きな瞳で僕を見る。

「おはよう。少しは眠れた?」

「全然。ちょっとうとうとして、夢も見てないし、それだけ」

長いまつげが瞳を隠す。憂いを宿した表情は、その外見とは対照的に、奇妙なくらいに大人びている。

そうして僕は、辛くなる。
キキの本音や心の中が、まるで分からなくなるからだ。

真に辛いのはキキであるのに。

「僕は気付かなかったんだけど、夜中、確認に起きてた?」

「それがね、すっごいの。一回も起きなかったの!
よーちゃんいるから大丈夫って、ずっとずっと考えてたから」

先ほどまでとは一転し、嬉々と笑って僕を見る。刹那の安堵に僕は口元を緩ませた。

だのに次には眉根を寄せて、縋るような視線に変わる。

キキの態度は一定しない。
くるくる変わる表情は、心の揺らぎによるものか。
おずおず伸びるキキの手を、僕は握って抱き起こす。

「でも、やっぱり確認して」

「うん。僕もその方がいいって思ってたところ」

「……ごめんね」

「謝るところじゃないよ」

悄げた彼女の頭を撫でて、もつれた髪を梳いてやる。
純度の高い黒髪に、朝の光が白く輝く輪を描く。

喩えるならば、天使の輪。
薄幸だから清らかなのか、清らかすぎて薄幸なのかは分からない。

布団の横にキキを立たせて、服をはだけて肌を見る。
日焼けしてない華奢な身体は病的なくらい青白い。脚にも腕にも身体にも、ひとまず傷はなさそうだ。

小さな体躯に変化はないが、そもそも成長していない。
十歳程度で身体の時間が止まったような、奇異な幼さが痛ましい。

「ね、よーちゃん、時間いいの?」

「え?あ、よくない」




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あきゅろす。
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