太陽と指先

「え」

そうなのだろうか。

ディルとアンは何かしら特別な関係にあって、だから、何の断りもなく別の女――つまりルーシィを伴うのは、よくない、と。

そう考えれば、辻褄が合うように思う。

「あ、ああ、それなら――」

「ふっざけんな、冗談じゃねえ!」

ルーシィは目を丸くする。
荒っぽいディルの声に、動かせないはずの身体が、びくりと跳ねたような気さえした。

間をおかず、吸血鬼は平静に戻り、ばつのわるい顔をする。

「あ、いや、悪い。驚かせたな」

「そうね……びっくりしたわ」

「だろうな。一応、もう一回言っとくがな。俺とあの蜘蛛女に、大した関係はない。同じ常駐組っつう、それだけだ」

いいな、と、ディルは床に座ったまま、女王のごとく椅子に腰掛けたルーシィを見上げた。彼女は視線だけで頷く。

それを確認すると、彼は彼女の膝に突っ伏した。なめらかな肌触りの青いスカートが、彼の頬の熱で温まる。

「おっさん、ルーシィに妙な事吹き込むなよ。頼むから」

「ほう。そんなに嫌かね?」

応える虎は訳知り顔で伏せり、尻尾を振っている。

ディルは参った、と両手を挙げた。

「嫌っつうか……駄目だ。そういう冗談は、勘弁してくれ」

「そうだね。私も意地悪が過ぎたかも知れない。あのねルーシィさん」

虎はふさふさした前足を組み替え、ルーシィを見上げる。

「青年はね、日の光が苦手なんだよ。ここの太陽は偽物だから死にはしないけれど、やはり、吸血鬼だからね」

「じゃあ、朝の区画に行くと、どうなるんですか?」

「さあな」

答えたのは吸血鬼本人だ。

彼は青い目を幻惑的に細め、ルーシィの動かない手を手袋越しに、優しい手つきで撫で始める。
指を絡め、扱くようにさすり、包み込んでは更に深く絡み合わす。

たったそれだけのことなのに、快楽の予兆とも言うべき微弱な痺れがルーシィの背筋を這い上る。
彼女は眉を寄せて身震いし、天井を向いたまま細く息を吐いた。

「行った経験すらねえんだが……平常通りとはいかねえだろうな。動けないお前を連れて行って、俺まで動けなくなったらどうしようもねえ」

「じゃあ……だ、だめ、なのね」

彼女の指を散々弄び、焦らすような間をおいて、吸血鬼は立ち上がった。
右手で彼女の肩を、左手で膝の裏を支え、軽々と抱き上げる。

ルーシィはまだ動けない。役に立たない四肢は投げ出され、シャンデリアに冷たくきらめく金髪が、反らされて剥き出しになった青白い首筋に何本か貼りついている。

ディルは彼女の小さな頭部を自分の肩にもたせかけ、冷えた金髪に唇を寄せた。

「駄目じゃねえよ。お前が望むってんなら、今から連れて行ってやる」

「今から?」

「ああ。早い方がいいだろ」

「あなたは、大丈夫なの?」

「はは、気にすんな。皮膚が焼け爛れても送り届けてやるよ」

それを聞き、ルーシィは渋面をつくる。

腹立たしいわけでも、気に食わないわけでもない。むしろ逆だ。ありがたすぎて、居心地が悪い。

彼女には、彼がここまで自分によくしてくれる理由が分からないのだ。




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