行為を煽る
ディルは一旦唇を離し、血の色をした自身の髪がルーシィに触れないように掻き上げる。
しかしそれは無駄なことで、貪るような口付けの合間に乱れた髪は、彼女の頬や、額や鎖骨に次々とかかっていく。
白い肌に、流血のような濃赤色。
「ッ、んぅ……!」
そのようすはひどく背徳的で、無自覚に、吸血鬼の本能を煽る。
彼は彼女の頼りない舌を強引に絡めとると、口蓋を執拗に舐め尽くし、じわじわと分泌される唾液を啜る。整然とした歯根にぬめった舌が触れる度、ルーシィは呻き、肩を震わせた。
ディルが自らの息苦しさに唇を離した時、彼女は虚ろな目と荒い呼吸で、ぐったりと四肢を投げ出していた。
上気した頬や汗ばんだ額に張りつく金髪を払ってやると、苦しげに息をしながら、とろけるような涙目で眼前の吸血鬼を睨付ける。
あからさまな敵意。
「流石に、キスは分かるか?」
「……る、さい」
「そう睨むな。綺麗な顔が台無しだ」
うんざりするほど幻惑的な笑顔で、ディルは彼女の青いドレスに手をかける。左手で背中を支え、右手で激しく上下する胸元のリボンを解き、臍まで続く編み上げ部分を緩めていく。
「まがい、物よ」
ルーシィは吐き捨てるように呟いて、リボンにかかったディルの手を払いのける。
これからの行為に怯えての行動かと思いきや、彼女はだるそうにしながらも身体を起こし、信じがたいことに、彼の左手を背中のファスナーへ誘った。
「……ここ。正面、のは、ただの……っデザイン」
濡れた唇と瞳で喘ぐ、途切れ途切れの口調の彼女。それはひどく官能的で、さながら娼婦のようでさえある。
ディルは不審げに眉を顰めた。
「覚悟したのか?」
「?……確かめて、くれるんでしょ?」
話が噛み合わない。
ルーシィは、脱衣の理由を「バルトに何かされたかどうかの確認」だと、本気で信じている。
途方もない無知さだ。防衛本能も警戒心も何もない。
「お前、本気で知らねえんだな」
ディルは呆れながらも、彼女の背のファスナーを一気に引き下ろした。
身体のラインは腰へ向かうほどに細くなり、へこんだ背骨が見えなくなると、この上なくなめらかな裂け目が現れる。
橙がかった明かりの下で、その肌はわずかなくすみもなく、限りなく白く美しい。
「ルーシィ、下着はどうした?」
小さな肩甲骨に唇を押し付けると、彼女はくすぐったそうに身をよじらせる。
「ああ、バルトに脱がされて、それっきりなの」
気恥ずかしさなど微塵もなく、あっけらかんとルーシィは答えた。性的な知識について、彼女は有り得ないほど、鈍い。
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